デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

元祖タイム・アフター・タイム

2010-12-05 08:16:29 | Weblog
 スタンダード・ナンバーと呼ばれる曲がどのくらい存在するのか知らないが、多くのアーティストにカバーされる楽曲という定義に基づくと数千曲に及び、数が多いと当然、同名異曲も存在する。なかでも「タイム・アフター・タイム」は、47年にジュール・スタインが書いた曲がジャズメンの間でも定番だが、若いプレイヤーは84年に全米ヒットチャート第1位を記録したシンディ・ローパーの曲を挙げるそうだ。マイルスがカバーしたことでこちらが定番になりつつある。

 元祖というべきスタインの同曲はシナトラの名唱で知られるが、センチメンタルでテンポを選ばないメロディラインにより多くのインストが残されている。どんなテンポでも様になるとはいえ、ラブソングはしっとりとしたバラードで聴きたい。カーティス・カウンスの「ランドスライド」は、フロントにジャック・シェルドンとハロルド・ランドを立て、カール・パーキンスにフランク・ バトラー、そしてカウンスのウエストコースト・ジャズの屋台骨を支えたリズム陣で編成されたカウンス・グループの初リーダー作にあたる。管が微妙に絡み合うゆっくりとしたテーマはエロティックで、スタインが音楽を担当した映画「紳士は金髪がお好き」のようにときめく。

 ウエストでリロイ・ヴィネガーとならぶ代表的なベーシストであるカウンスは、37歳という若さで亡くなっているので活動期間は短いものの多くのセッションに起用されている。堅実なリズムキープはスタジオの仕事で重宝され、重い音はセッションのうえでフロント陣を鼓舞する起爆剤になっていたのだろう。ウエストといえばどうしてもクールな印象をうけ、それが黒人プレイヤーであってもコンテンポラリーというレーベルの作用によるものだろうが乾いた演奏が多いが、このグループはイーストに匹敵するホットなハードバップを聞かせる。それはカウンスの太いベースラインと何よりもジャケット写真からも伝わってくる温もりにあるのかもしれない。

 再三再四という意味の「time after time」は、その熟語だけで曲作りに嗜みのある人なら鍵盤の数音を叩くと珠玉のメロディが浮かんできそうだし、恋に落ちた女性なら思いのままを綴ると一編の詩が書ける。この先も多くの曲が生まれ、将来スタンダード・ナンバーとして歌い継がれる曲が発表されるだろう。数十年後、「タイム・アフター・タイム」という第三の同名異曲が流れていても不思議はない。
コメント (36)
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