デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

バーバラ・ロングは女医になったのだろうか

2010-12-12 08:19:30 | Weblog
 昼間、所要があり車を走らせていると病院が目に留まった。小生が居住する同じ区内なので病院は珍しくないが、診療科目と病院名の医院長と思われる名前を聞いたような気がする。夜になってヴォーカルのアルバムを聴きだしたころ、10年ほど前に「Night And Day」というジャズヴォーカルのCDを自主製作した女医さんを思い出した。当時、美人女医が・・・と紹介されていたのを覚えている。美人の冠には弱い。

 チャンスに恵まれず好きな音楽の道を断念し、他の職業に就く人は多く、バーバラ・ロングもそんなひとりだ。ハイスクール時代から音楽的才能を開花させ地元で注目されたものの、シカゴ医科大学に進み、無事卒業後、医師に・・・ところが、そのタイミングに地元シカゴのジョニー・グリフィンから声がかかる。願ってもないチャンスに恵まれたバーバラはメスをマイクに持ち替え、スコット・ラファロが参加していることからよく話題になるハーブ・ゲラーのアトコ盤「Gypsy」でデビューを飾った。この歌を聴いて惚れこんだのがトランジション・レーベルの創設者、トム・ウィルソンで、当時A&Rマンとして働いていたサヴォイに録音したのがバーバラ単独のアルバム「SOUL」だ。

 タイトルからはR&B色のソウルフルな感じを受けるが、ハスキーな声でくせのない歌い方だ。ナット・フィップス、ジョージ・タッカー、アル・ハリウッドの手堅いリズム陣にビリー・ハウエルのトランペット、そして歌伴は珍しいブッカー・アービンをバックに、自作曲やジャズアレンジが面白いチャイコフスキーの「白鳥の湖」を伸び伸び歌っている。スタンダードの選曲も趣味が良く、「グリーン・ドルフィン・ストリート」、「ユー・ドント・ノー・ホワット・ラヴ・イズ」、そしてエリントン・ナンバー、「ジャスト・スクィーズ・ミー」はタイトルの如く抱きしめたくなるような可憐さと仄かな色香さえ匂わす。このアルバム1枚限りでジャズ界を去ったバーバラは医師の道を歩んだのだろうか。

 件の美人女医さんのアルバムは趣味の域を超えないものの、ジャズヴォーカルへの愛着がひしひしと伝わってくる。丁寧な歌い方は親身な診察にもつながっているのだろう。一度はお会いしたいものだが、幸い皮膚科に掛かる症状はない。ジャズを聴かないと体じゅうに斑点が出ます、とでも訊いてみようか。それは後天性ジャズ依存症候群と診断されるかもしれない。そして付ける薬はナイト。
コメント (20)
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