デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ナーディスの作者は誰か 

2011-02-13 08:15:00 | Weblog
 バップ期の名曲「ドナ・リー」はパーカーの作と言われてきたが、マイルスの自叙伝に「ドナ・リーという曲を書いたが・・・」という件がある。マイルス発言の信憑性や曲を解析しないことには真相を解明できないが、この検証は別稿にまわすとしてマイルスがらみで「ナーディス」という曲も謎だ。マイルスがバンドメンバーだったキャノンボール・アダレイのために作ったとされているが、どうにも怪しい。

 誰かに贈った曲であっても自作曲なら一度は演奏したくなるものだが、マイルスは一度も録音していないし、曲調は生涯10回以上も吹き込んだビル・エヴァンスの感性にフィットする。当時マイルスもエヴァンスもモード手法による演奏を模索していたころだから曲作りにしても同じようなアイデアと作風が表れても不思議ではないが、マイルス作とするには釈然としない。エヴァンスの演奏に慣れた耳がそう思わせているだけだ、と言われるとコード進行の分析を出来ない小生は返す言葉がないが、ワルツ・フォー・デビーやヴェリー・アーリーといったエヴァンスの曲と並べても違和感がないばかりか、「エヴァンスらしさ」という共通の美が見えてはこないだろうか。

 このエヴァンスの愛奏曲にデビューアルバムで果敢に挑んだのはリッチー・バイラークで、デイヴ・リーヴマンのルックアウト・ファームのフランク・トゥサとジェフ・ ウィリアムズをバックにリリカルなプレイを聴かせてくれる。74年に発売された当時から高い評判だったが、質の高いプレイは頭で理解できても、ECMのその澄み切った音は長年染み付いてきたゴリゴリしたジャズの音に反応する身体には馴染めなかった。あれから30年以上も経つと不思議なもので、自然に聴こえるばかりか、寧ろ古臭くさえ感じる。それだけより以上に録音技術が進歩し、耳も身体もその音に慣れたのだろう。

 Go Jazz というレーベルを主宰しているミュージシャンでありプロデューサーでもあるベン・シドランが、あるときマイルスにナーディスというタイトルの由来を聞いたという。マイルスは覚えていないと、答えたそうだが、もしエヴァンスに同じ質問と、ついでに作者は誰かと聞いたなら何と答えるだろう。当時、Ben Sidran そう君の音楽が好きで、君の名前を反対から綴ったものさ、作者はマイルスに聞いたらいい、そう答えたかもしれない。
コメント (31)
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