デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

子守唄を聴きながらジョージ・シアリングは永遠の眠りについた

2011-02-20 07:24:07 | Weblog
 世界で最も権威ある音楽賞といわれているグラミー賞の発表が先日行われ、B'zのギタリスト松本孝弘さんをはじめ、クラシックのピアニスト内田光子さん、琴演奏家の松山夕貴子さん、ジャズ界からは上原ひろみさんらが各賞を受賞した。過去にも日本人が受賞しているものの各界からの多くの受賞は快挙で、日本人ミュージシャンの演奏レベルの高さや、アイデアの豊富さが世界に認められたことは喜ばしい。

 そのグラミー賞のジャズ部門を83年に「An Evening With George Shearing & Mel Torme」で受賞したのは、先日亡くなったジョージ・シアリングだ。ダコタ・ステイトンをはじめペギー・リー、ナンシー・ウィルソン、ナット・キング・コール等々、多くのシンガーとアルバムを発表してきたシアリングの集大成である。一連の作品は単なる歌伴ではなく、そのシンガーの持ち味を引き出すシアリングのファンタスティックなタッチと、その音から閃くシンガーが一体となった歌伴を超えた芸術といっていい。シアリングとメル・トーメの男の粋と色気を漂わすアルバムは、イギリス出身のシアリングが盲目というハンディを負いながらも手にした名誉の作品でもある。

 渡米後、49年に結成したオリジナル・クインテットは、ピアノ・トリオにヴァイヴとギターを加えたユニークな編成で、クール・サウンドの創始者と呼ばれた。クールというとトリスターノ派の難解な演奏を思い起こすが、こちらはその編成から音こそクールであれ、爽快にスウィングするし、ピアノとヴァイヴとギターのユニゾンは世界中でコピーされたほど馴染みやすい。ここ日本でも渡辺晋とシックス・ジョーズがそのスタイルに倣い、シアリングの大ヒット作「九月の雨」をテーマ曲にしていたほどだ。49年というビ・バップ全盛期にこのスタイルは相当に斬新で新鮮であったろうが、今聴いてもそれは洗練されていて眩いほどだ。

 2007年にその大きな功績が認められ、出身国のイギリスでナイトの称号を授与されたシアリングが亡くなったのは2月14日、ヴァレンタインデイのことだった。シアリングが作曲した永遠の名曲「バードランドの子守唄」は、多くのシンガーやプレイヤーがレパートリーにしている。そのメロディはチョコレートを貰った男性のように心が弾み、チョコレートのようにほろ苦く、そして甘い。Sir George Shearing 享年91歳 合掌
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