デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

紅茶の本場、イギリスで二人でお茶を

2013-10-13 09:00:17 | Weblog
 ファッツ・ウォーラー、アール・ハインズ、アート・テイタム、テディ・ウィルソン、生年順に並んだのはスウィング期を代表するピアニストである。さらにセロニアス・モンクとバド・パウエルという二大バップ・ピアニストが続く。ジャズ史に残るミュージシャンばかりで、それぞれ個性的なスタイルを持っている。そのスタイルは後のピアニストに少なからず影響を及ぼしているし、現在のジャズ・ピアノの原典といっていい。

 上記のピアニスト全員が弾いているいわばピアニストの登竜門ともいえる曲がある。ヴィンセント・ユーマンスの代表作の一つである「二人でお茶を」だ。映画で歌ったドリス・デイに似合う甘いラヴソングで、トミー・ドーシー楽団のチャチャチャ・バージョンが大ヒットした典型的なポヒュラーソングだが、ジャズでこの曲を取り上げると甘さは飛び、アドリブの素材としての曲の面白さが際立つ。その妙はヴォーカルならバックのプレイヤーもタジタジするニューポート・ジャズ・フェスのアニタ・オデイや、サッチモのバンドでテーマからアドリブまで一人で延々と吹いたクラリネットのバーニー・ビガードのソロで味わえる。

 その一流のピアニストの証しともいえる曲に挑戦しているのはイギリス出身の盲目のピアニスト、エディ・トンプソンである。名門ロニー・スコット・クラブのハウス・ピアニストも務めた人で、英国のオスカー・ピーターソンと呼ばれるほどテクニックとジャズ・センスは抜群だ。注目すべきはオーディオ・マニアも唸らせるMPSレーベルの録音技術で、同レーベルの社長であり技術者でもあるブルーナーシュワーがいかに優れた耳を持っていたのかわかる音である。低音がよく響くこともありエディ・コスタを思わせるが、縦横無尽の音空間はトンプソンならではのものだ。ヴォリュームを一段上げるだけでスピーカーがピアノに変わる。

 パウエル以降も多くの個性的なピアニストが現れ、「二人でお茶を」も録音数は減ったとはいえ今でも演奏されるが、先のピアニストを越えるものを聴いたことがない。1925年に作られた曲は今では前時代のメロディという印象を免れないが、数あるスタンダードでもアドリブ展開の面白さでは一二を争う。甘いタイトルとメロディからジャズのエッセンスを引き出した先のピアニストの偉大さを改めて知る。
コメント (10)
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