デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

山本邦山とデヴィッド・フリーゼン

2014-03-09 10:29:54 | Weblog
 先月10日に亡くなった尺八奏者で人間国宝の山本邦山は、菊地雅章をはじめ佐藤允彦、富樫雅彦等との共演でジャズファンにも広く知られている。なかでも1970年に、菊地、ゲイリー・ピーコック、村上寛のトリオをバックに和のメロディを奏でた「銀界」は、日本ジャズアルバムの傑作として後世に残るものだ。続編としてピーコックとデュオで吹き込まれた「夢幻界」もスリリングな作品として印象に残る。

 そしてもう一人、邦山と共演したベーシストがいる。デヴィッド・フリーゼンだ。77年のモンタレー・ジャズ・フェスティヴァルで聴衆が度肝を抜かれたという超絶技巧の持ち主で、その名が日本に知れ渡ったのは、76年に録音された「スター・ダンス」というアルバムだった。これが凄い。ベースを弾かない人でも、「これは違うぞ」とわかる斬新なベース音だ。ベーシストの解説によると、両手で同時に別のメロディを弾くという。さらに、弓で弦を叩きながら別の弦をピチカートで演奏しているそうだ。これらのテクニックは勿論だが、このような奏法を考え付くこと自体、並外れているし、ベースという楽器を知り尽くしたうえでの可能性の探求なのだろう。

 「The Name of a Woman」は、タイトル通り、サム・リヴァースの「Beatrice」をはじめ、ショーターの「Delores」、リー・モーガンの「Ceora」等々、女性の名前を冠した曲を中心に取り上げた2000年の作品だ。どの曲も女性をイメージしているので響きは美しい。ランディ・ポーターのピアノと、アラン・ジョーンズのドラムという典型的なトリオ編成で、スタンダードも選曲もされているので昨今流行のBGMジャズと間違われそうだが、こちらは火花が飛び散るセッションだ。バラードにおける三者の調和も見事なもので、「In the Wee Small Hours」は、夜も深まって静まりかえった情景をにおわせる。

 日本の伝統的な木管楽器である尺八といえば虚無僧を思いつくぐらいで、「銀界」の企画を聞いたときは驚いたが、実際にレコードを聴いてみるとピアノやベースとマッチして何ら違和感はない。それは「首振り三年ころ八年」で磨かれた尺八の音色は勿論だが、邦山が稀代のインプロヴァイザーだったということだ。「粋」や「風流」には無縁だが、尺八の音色で安らぐのは日本人だからかもしれない。
コメント (8)
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