デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

フリーダム・ジャズ・ダンスで踊ったマイルス

2014-03-23 08:17:37 | Weblog
 いつの間にかベーシスト御用達になった曲に「フリーダム・ジャズ・ダンス」がある。躍動的なタイトルで、語感から受ける響きもいい。きっかけはチェコスロバキア生まれで、チック・コリアの「Now He Sings, Now He Sobs」で頭角を現したベーシスト、ミロスラフ・ビトウスが1969年の初リーダーアルバム「Infinite Search」で取り上げたことによる。上下動が激しく、ギクシャクしたメカニックな旋律はベースで弾きにくいことから超絶技巧を披露するにはもってこいの曲なのだろう。

 作者はこの曲で一躍有名になったテナー奏者のエディ・ハリスだ。「栄光への脱出」や、69年にモントルー・ジャズ・フェスティヴァルで、レス・マッキャンと共演した「スイス・ムーブメント」でその名は一部で知られていたものの、正統派のジャズファンから軽視されていた存在だ。前者はジャズメンとして初のゴールド・ディスクを獲得したほどの大ヒットで、後者もまた1970年の初め数箇月に亘りジャズ・レコード・ベストセラーのトップを独占するほどの売れ行きだった。ポピュラーなものを否定して、よりアヴァンギャルドなものを追いかけるのが格好いいとされていた時代だ。

 自身のオリジナル演奏は、65年録音の「The In Sound」 に収められているが、これを当時から聴いている人は少ない。国内盤が出なかったことによるものだが、仮に輸入盤で見かけても知名度の低さで手に取ることもない。もし手にしてもジャケット裏の「いそしぎ」や「ス・ワンダフル」という曲目で戻す人もいる。一歩進んで、シダー・ウォルトンやロン・カーターというメンバーで聴いたとしてもサンバ風の甘い演奏で、B面の「フリーダム・ジャズ・ダンス」まで届かない。甘い音色ながらよく歌うハリスが評価されなかったのは、このような悪条件が重なったためと思われる。

 この曲を1966年に「Miles Smiles」で逸早く取り上げたのはマイルスだった。電化マイルスに転向する前の最後の作品のひとつだ。管楽器の電化といえばエディ・ハリスがマイルスより先に取り入れている。曲といいエレクトリックの導入といい、ダイヤモンドの原石を見逃さないマイルスの慧眼は凄い。マイルスが原石を磨かなかったらビトウスの名演もウェザーリポートもなかったろう。
コメント (4)
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