デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

撫でるようにキーを押さえていたレッド・ガーランド

2015-03-22 09:31:14 | Weblog
 小川隆夫著「ジャズマンが愛する不朽のJAZZ名盤100」(河出書房新社)に、デイヴ・ブルーベックが「Groovy」を聴いた感想が紹介されている。「逆立ちしたってわたしにこのような演奏はできない(笑)。レッド・ガーランドのプレイはバック・ビートを強調することでソウルフルな味わいを発揮するところが特徴だ」。ブルーベックはマイルスとのジョイント・コンサートでガーランドとよく顔を合わせていたという。

 生演奏を何度も耳にしているピアニストならではの表現だが、ソウルフルな味わいはリスナーも感じ取れる。そして「タッチに艶がある。これは鍵盤の触れかたに理由がある。レッドはいつも撫でるようにキーを押さえていた。それでこういう音が生み出される」と。この艶はレコードからも伝わってくるが、「撫でるようにキーを押さえていた」というのは驚きだ。確かにバラードにおけるシングルトーンはそんな感じだが、お得意のブロックコードはダイナミックだし、速い曲では力強く鍵盤を叩いているようにしか聴こえないが・・・

 このブルーベックの所感に思わずうなずいたのは、ガーランドが死の1年2か月前に残したサンフランシスコの名門クラブ、キーストンコーナーで行なわれたライヴだった。バラードの「My Funny Valentine」は勿論だが、アップテンポの「Love For Sale」もキーを撫でるような印象を受けた。ラスト・レコーディングであることや、人生を達観した深い味わいがそう感じさせるのかもしれないが、速いフレーズも間違いなく「撫でる」音である。一度聴いたら忘れられないグルーヴ感は鍵盤の触れかたによるものと解明したが、これだけはどんなピアニストも真似できない。

 ブルーベックは、「スイングしないピアニスト」というネガティブなレッテルが貼られ、ジャズ喫茶ではさっぱり人気がなかったが、本国では多くのキャンパス・コンサートを開いてジャズファンを増やしている。一方、ガーランドのレコードがジャズ喫茶でかからない日はない。ともに逆立ちしたって演奏できないスタイルがジャズを面白くしてきたのだろう。
コメント (17)
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