デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

こどもの日に聴くトニー・オルテガ

2016-05-01 09:25:52 | Weblog
 拉致監禁という閉塞的なテーマは気が乗らず、予告編もさほどインパクトがなかったのでパスしようと思っていたが、映画通の知人が褒めていたので映画館に足を運んだ。ブリー・ラーソンがアカデミー賞主演女優賞を初ノミネートで受賞した「ルーム」である。監禁からの脱出劇ではあるが、その後の社会復帰までのプロセスを子どもの視点から描いたヒューマン・ドラマの傑作といっていい。

 見るもの触るもの何にでも興味を示すのが子どもで、そんな写真を使ったジャケットはトニー・オルテガの「Jazz for Young Moderns」だ。知名度の低いオルテガだが、まずレコード棚を見てみよう。ライオネル・ハンプトンにディジー・ガレスピー、メイナード・ファーガソン、クインシー・ジョーンズ、ドン・エリス、ネルソン・リドル、ジェラルド・ウィルソンのビッグバンドが1枚はあるだろう。パーソネルをじっくり見てほしい。(alto sax,tenor sax, clarinet, flute)の一つか全部が記載されているのがTony Ortegaだ。これらの楽器を完全に吹けるマルチリード奏者ゆえどの楽団も欲しがったのだろう。

 マルのレフト・アローンが3000枚、ズートのダウン・ホームが1000枚、ジス・イズ・クリスが500枚売れても、このアルバムは1枚しか売れないほど地味なベツレヘム盤だ。だがメンバーは凄い。アート・ファーマーをはじめジミー・クリーヴランド、ボビー・ティモンズにエド・シグペンという名手揃いで、アレンジはナット・ピアースとボブ・シープだ。「Ghost of a Chance」を聴いてみよう。このアレンジはシープで、原メロディーを生かしながらモダンな味付けをしているので全く違う曲に聴こえるほど斬新だ。オルテガが最も得意とするアルトをフューチャーしておりビッグバンドから抜け出てくる音は力強い。

 「ルーム」は解放された子どもが初めて目にする外の世界を素晴らしいカメラアングルでとらえている。大きく広がった景色に驚きながらも、環境を受け入れて成長していく少年の背中は大きかった。来る5日はこどもの日である。この日ぐらいは子どもの目線で考え見て触れてみよう。この楽器はどうして音が出るのだろうと・・・忘れていたものが見つかるかも知れない。
コメント (8)
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