デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

名ジャズ・プロデューサー木全信さんが遺した名盤

2016-11-06 11:01:32 | Weblog
 飽きずに「枯葉」かい?と戻るボタンをクリックするか、秋色の風景を切り取ったジャケットに惹かれてページを開くか、どちらだろう。ネタが涸れてくるとこの手を使う。有名曲だけに来年の秋まで続くほど録音は多い。先週話題にしたシンディ・ブラックマンとアルバムタイトルが同じなら録音も1989年と同じだ。更にCDの発売元こそ違うが日本の企画で、こちらのプロデューサーは木全信さんである。

 ニューヨークを中心に活躍する気鋭のメンバーを集めた「Big Apples」というプロジェクトだ。マイルス、フレディ・ハバードに次いでトランペット・シーンを牽引するロイ・ハーグローヴ。キャノンボール・アダレイの再来と騒がれたヴィンセント・ハーリング。ジャズ・メッセンジャーズという登竜門をくぐったピアニスト、ドナルド・ブラウン。ストックホルム生まれながらアメリカの響きを持つベーシスト、アイラ・コールマン。どんなスタイルでも叩けるドラマー、カール・アレン。そしてハバードがゲストという豪華なセッションだ。一体ギャラは幾らかかったのだろうと要らぬ心配をしてしまう。作ろうと思えばリーダーを変えるだけで6枚のアルバムが出来る面々だ。

 全10曲でメンバーのオリジナルとスタンダードが半分ずつとバランスがいい。オリジナルといっても理論よりスウィングを優先した乗りのいい曲ばかりだ。セッションでここぞとばかりに頭でっかちの七面倒くさい曲を持ってくるのがたまにいるが、シーンを先見する実験的な勉強会ならまだしも気楽な録音でそれは無用というもの。木全さんの意を酌んだ曲作りは好感が持てる。タイトル曲をはじめ「'Round Midnight」、「Lullaby of Birdland」、「What's New」 とテーマは崩さずアドリブで勝負というのも王道だ。「In the Still of the Night」はテンポを速めにとっており、ニューヨークの夜の喧騒を醸し出している。

 CD時代になり日本の企画ものが増えた。ミュージシャンに録音の機会を与え、日本人好みのジャズを提供するのは素晴らしいことではあるが、金太郎飴のピアノでは聴く気にもなれない。300枚以上のジャズアルバムを制作した木全信さんだが、似たような作品であっても狙いは全く違う。その木全信さんは今年7月27日に78歳で亡くなられた。著書「ジャズは気楽な旋律」(平凡社新書)というタイトルにジャズ愛がつまっている。
コメント (10)
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