デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

アーサー・ブライスとその時代

2017-04-09 09:46:50 | Weblog
 先月27日に亡くなったアーサー・ブライスを初めて聴いたのはジュリアス・ヘンフィルのフリーダム盤だった。70年代前半のことで、泣く子も黙る攻撃型のフリージャズだ。次がチコ・ハミルトンで、何とこちらは乗ってけサーフィンではなく、翔んでけフュージョンである。混沌としたジャズシーンを生き抜こうとするなら節操、いや幅広くプレイできることが条件だ。ともにジャズ喫茶で1,2度聴いただけだが綺麗なアルトと記憶している。

 広く名前が知られるようになったのはギル・エヴァンスの楽団やジャック・デジョネットのスペシャル・エディションに参加したころだろうか。どちらのバンドでも一際異彩を放っていたが、レコード会社が余程の宣伝費をかけたとみえてジャズジャーナリズムの扱いも大きい。キャノンボール・アダレイが75年に亡くなったので、「キャノンボールの再来」とか、「次代を担う新鋭」等と持ち上げられた。また、メジャーレーベルのCBSと契約したことも人気に拍車をかける。実力は証明済みのアーサーといえど、宣伝力がなければ無名のまま終わったかも知れない。実際、そういうミュージシャンが多いのがジャズ界の現実だ。

 数あるリーダー作からCBS第一弾「In the Tradition」を選んだ。この時30代後半で、それまでのキャリア全てが詰まっている。スタンリー・カウエルとフレッド・ホプキンス、スティーヴ・マッコールのトリオをバックにしたワンホーンなので音色やフレーズが浮き出てくる。ファッツ・ウォーラーの「Jitterbug Waltz」にエリントンの「In A Sentimental Mood」、「Caravan」というアルバムタイトルの如く伝統を重んじた選曲だ。注目すべきは「Naima」である。録音した78年当時、まだ発表されてから20年も経っていない曲だが、コルトレーン以降のサックス奏者にとっては古典という存在なのかも知れない。

 改めてフリージャズからフュージョンまでこなすブライスが共演したミュージシャンや参加したアルバムを調べてみた。先に挙げた他にデヴィッド・マレイ、ジョン・ヒックス、レスター・ボウイ、チコ・フリーマン、ウディ・ショウ、マッコイ・タイナー、ワールド・サキソフォン・カルテット等々、70年代から90年代にかけてシーンを彩った人ばかりだ。下積みが長かったアルト奏者はデビューしてから一度も止まることはなかった。享年76歳。合掌。
コメント (6)
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