デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

歌うウディ・ハーマン

2012-08-05 07:43:52 | Weblog
 先週の「Gershwin for Lovers」に続き、フォー・ラヴァーズ・シリーズ第2弾は、「Song for Hip Lovers」を選んでみた。このヒップは、ウディ・ハーマンのいやらしい視線の先にあるお尻ではなく、ノーマン・メイラーがよく使っていたスクウェアに対するヒップである。世間の常識や時代の枠にとらわれないライフスタイルをさす俗語で、ヒッピーという言葉もここから生まれた。ヒップ・ラヴァーズは今なら翔んだカップルということだろうか。

 さて、ハーマンは何故こんなに満足そうな顔をしているのか?無防備に寛ぐ女性を見ているとつい顔も綻ぶが、それ以上に嬉しいのは歌手に専念したアルバムを作ったからである。30年代から活躍したハーマンのバンドはスタン・ゲッツやズート・シムズなど一流ミュージシャンを多数輩出したばかりでなく、多くのスウィング・バンドがジャズの流れの変化に対応できず経営難に陥ったなか、エレキサウンドを取り入れたり、フュージョンに挑戦したりと、常に前進してきた。これだけビッグバンドを長く維持したハーマンの功績を称えるべくノーマン・グランツならずとも歌うのが好きなハーマンに心行くまで歌ってもらおうという気になる。

 甘いアルトサックスと哀愁漂うクラリネット奏者として一流のハーマンだが、47年に歌った「ブルース・イン・ザ・ナイト」が大ヒットしているし、バンド・シンガーのメアリー・アン・マッコールとデュエットすることもあり、シンガーとしてもビッグバンド・リーダーの裏芸という域を完全に超えたものだ。トップのバカ騒ぎの意味がある「メイキン・ウーピー」からご機嫌な歌いだしで、歌うことが楽しくてしようがない、という感じだ。注目すべきは自己のバンドをバックにしたものではなく、ハリー・エディソンやベン・ウエブスター、バーニー・ケッセルといった錚々たるメンバーがバックを務めていることである。気分はさぞ一流のジャズシンガーだろう。

 フォー・ラヴァーズといえばシナトラの「Songs For Young Lovers」、テディ・ウイルソンの「For Quiet Lovers」、ビリー・ホリデイの「Songs For Distingue Lovers」等、名盤が並ぶ。愛し合う恋人たちは皆同じ夢を見るのかとさえ思うほど素敵な曲が揃っている。次はどれにしようか。そういえばハーマンのヴォーカルアルバムに「Music For Tired Lovers」というのがあった。最後に草臥れたカップルが出てくるのでこのシリーズはやめておこう。
コメント (12)
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