デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

オルガン・ジャズの女王・シャーリー・スコット

2012-08-19 07:07:11 | Weblog
 1950年代後半にジミー・スミスはベース・ノートをフット・ペダルで弾くという斬新な奏法で現在のオルガン・ジャズのスタイルを築いた。それまでピアノの代用として扱われていたオルガンを即興演奏が可能なジャズの楽器であることを証明した功績は大きい。以降多くのオルガン奏者が登場している。ジミー・マクグリフ、ジョン・パットン、ベビーフェイス・ウィレット、ジャック・マクダフ、チャールス・アーランド・・・

 そしてシャーリー・スコット。インパルスに「Queen of the Organ」というアルバムもあるオルガン・ジャズの女王と呼ばれた人だ。日本では知名度も人気もないオルガニストだが、本国では相当人気があったらしくリーダーアルバムは50枚を数える。夫君のスタンリー・タレンタインと組んだアルバムも数多くあるが、内容的には似たり寄ったりで、あるジャズ喫茶でジャケットと違うレコードをかけても誰も気付かなかったという話もあるくらいだ。ではどれを聴いても同じか、というとそうでもない。数あるスコットのアルバムでも「オン・ア・クリア・デイ」は女性らしい繊細なオルガンサウンドを楽しめる。

 オルガン奏者はフットペダルでベースラインを刻むので通常ベーシストはいないが、スコットはこのフットペダルが苦手だっためほとんどのアルバムはベースとドラムが入ったピアノトリオに準じた編成で、ここがスミスや他の奏者と大きく違うところだ。その分キーボードに集中できるため音は肌理細やかで、音色は違えどまるでピアノを弾いているかのような鍵盤の強弱まで伝わってくる。オルガン・ジャズというとコテコテのファンキーか、ブルージーな演奏が定番だが、ロン・カーターとジミー・コブの参加もあり、よりピアノ・トリオに近い都会的で洗練されたオルガン・トリオは新鮮に聴こえるだろう。

 オルガン奏者はほとんどがピアノから転向した人で、スミスも元はバド・パウエルにも師事していたことがあるバップ・ピアニストだった。多くのピアニストが鎬を削っていたときに出会ったのがオルガンである。もしスミスがピアニストの道を選んでいたなら違う成功があったかもしれないが、今のオルガン・ジャズのスタイルは確立されていなかっただろう。ピアノに比べると軽い鍵盤に晴れた未来が見えたのかもしれない。
コメント (16)
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