コタツ評論

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オリバー・ツイスト

2006-07-06 19:48:13 | レンタルDVD映画
書き直そうと思っていたら、元の文を消してしまった。

ようするに、オリバー少年をどう見るか。主人公でありながら、存在感が希薄で弱々しい印象に終始する。それはどうしてなのか。オリバー少年が貧しい孤児だからだ。
この映画は、マルクスの盟友エンゲルスが「イギリス労働者階級の現状」という有名なルポを書いた19世紀のロンドンを舞台としている。そこでは年端もいかぬ子どもたちが、狭いカイコ棚ベッドに寝かされ、長時間の重労働に酷使されていた。おかげで若年層の発育不良は著しく、徴兵検査の基準身長を引き下げるほどだったとエンゲルスは報告している。オリバーの境遇はさらにそれ以下だった。努力すれば、一生懸命やれば道は開けるとは、民主主義的な夢想であっても、絶対的な貧困下においては現実ではない。19世紀のイギリスが野蛮な弱肉強食の時代だったからか。むしろ、今日とさほど変わらぬ市民社会と法治が築かれていたと描かれている。ただ、オリバーはその市民社会には決して入れず、法治なるものはひたすら冷酷にオリバーを扱うだけだった。誰も庇護者がいない無知無力な子どものオリバーはおずおずとか細い声で話す。社会的弱者のひとつの現実である。

ロンドンで飢え死に寸前のオリバーを拾って食事を与えたのは、少年窃盗団のボスであり、盗品の故買屋を兼ねるフェイギン老人だった。少年窃盗団の一員として生き延びる道がオリバーに開ける。そこで、オリバーに悪事に対する忌避感を見て取ることはできない。飢えを満たされ、庇護者と仲間を得たオリバーは幸福そうにさえ見える。これもひとつの現実である。現実とはありふれた事実の追認でしかない。ならばなぜ、オリバーの物語なのか。そうした疑問がずっと残っていく。一方、フェイギン老人は、子どもを利用した悪事で稼いだ金品を老後の蓄えとして隠し持ち、派手な散財などせず、少年たちを疑似家族として、つましく暮らしている資本主義的精神に富んだ人物である。体制や権力への反逆の心はフェイギン老人にもその少年窃盗団の子どもたちにもない。警察に逮捕されて絞首刑にされることを「ブランコ」と呼び、ひたすら恐れている。彼らもまた、今日を生き延びることができたというだけの社会的な弱者に過ぎない。

ところが、ひとつの事件を契機にオリバーは、階級と階層を超えたもうひとつの現実を見せる。仲間がスリをするのを見ていたオリバーが犯人と疑われ、えん罪が晴らされて裕福な市民ブラウンロー氏に引き取られる。フェイギン老人と悪党仲間のビル・サイクスたちは、オリバーに手引きさせてブラウンロー宅に押し入ろうと計画する。結局、土壇場でオリバーが泣き叫んでこの非道を止めようとして、ビル・サイクスに撃たれることで計画は失敗し、フェイギン老人一党の破滅を招く。ここでもオリバーは、犠牲となるのを恐れず身を挺して悪事を止めたというより、大騒ぎして撃たれてしまった愚図な子どもにしか見えない。つまり、オリバーがなけなしの勇を奮い起こしたことはさして重要なことではないのだ。そして、オリバーは清く正しい子として、改めてブラウンロー家に迎え入れられ、幸福に暮らすことになる。ここでジ・エンド、にはならない。唐突に場面は切り替わって、オリバーはブラウンロー氏に付き添われて、フェイギン老人の獄窓を訪ねる。絞首刑に怯えてフェイギン老人は錯乱している。オリバーは、開口一番、フェイギン老人が自分を拾ってくれて、面倒を見てくれたことに心からの感謝を述べる。ブラウンロー氏への感謝とまったく等価に。そして、ともに神に跪いて祈ろうと促す。さらに錯乱するフェイギン老人。

ここでオリバーとは何だったのか、ようやく明らかにされる。出逢ったすべての大人たちや子どもたち、フェイギン老人やビル・サイクスを、オリバーがどのように見ていたのか。見られている人々がオリバーに何を見い出して、鏡を見るように少し不思議そうな表情になるのか。まったく特別には見えないオリバーが特別であることを、そして特別ではないことを、観客は最後に知る。オリバーは祈りだった。だからこそ、何の取り柄もなさそうなオリバーに、狡猾なフェイギン老人は溜め込んだ金品を見せてしまった。だからこそ、ナンシーは自分の天使の心を止められなかった。そのナンシーを殺したビル・サイクスは死ぬまでオリバーを離さなかった。弱々しい祈りだとしても、人はそれを手放せない。ポランスキのまぎれもない傑作。

成分解析

2006-07-06 00:35:13 | ノンジャンル
知人の49%は汗と涙(化合物)で出来ています
知人の37%は鍛錬で出来ています
知人の9%は濃硫酸で出来ています
知人の3%は成功の鍵で出来ています
知人の2%は心の壁で出来ています

他人の成分は笑えるのに、自分のだとマジに考え込むバカ

成分解析
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