コタツ評論

あなたが観ない映画 あなたが読まない本 あなたが聴かない音楽 あなたの知らないダイアローグ

思い出の猫たち

2009-12-06 23:40:00 | ノンジャンル
9匹目の仔猫は、どうやら左目がダメかもしれない。目脂でふさがって化膿したのではなく、眼球そのものに膜が張ったように瞳孔を見ることができない。生まれつきの障害なのか、後天的な眼病なのか、たまにそんな眼の猫を近所で見かける。獣医に行かねば。そういえば、昔、片目のタヤンという白の雄猫がいた。やはり、目脂で眼がふさがり、ヒクヒクしていたのを連れ帰り、獣医に診せたところ、「膿んでますねえ」といって、若い獣医は腫れた瞼を親指で押しはじめた。仔猫はミギャーミギャー泣きわめく。化膿の具合を確かめているのだろうと思っていたのだが、やがて、ドロリと白い塊が落ちた。「ほら、たくさん膿が出たあ」「先生、それは眼じゃないですか?」「あれ? 目玉出ちゃったの」。獣医なんてのは、けっこういいかげんなのが多いし、とくに経験の乏しい若僧には気をつけなくちゃダメですよ。アノヤロー! というわけで、右目が赤い空洞となり、イスラエルのダヤン将軍にちなみ、しかし軽量級なので、「タヤン」と名づけた。後ろから、見えない右目のふちをチョンチョンと人指し指で突つくと、見える左目で見ようと頭をグルリと巡らすのがおもしろくて、ちょくちょく遊んでました。タヤンは何度されても後ろには気づかず、美しい水色の左目を右に回しては、「誰か触ったのになあ?」と不思議な顔をしていた。片目のせいでもないだろうが、何とタヤンは我が家のボス猫になり、他の5匹を従えていた。忙しくて、猫缶を選んで買う暇がなく、当時、一番安かった、たしか日魯漁業のMMIY(ミミー)缶詰ばかり与えていたら、タヤンが率いて全員が家出したことがある。家出といっても、雀が大騒ぎするので、所在はすぐにわかった。屋根の上に登っているのである。縁側から降りて猫たちの名を呼び上げると、何匹か庇の雨樋からニュッと顔を出す。「帰っておいで、ごはんだよ」というと、帰りたそうに首を伸ばすのだが、タヤンが顔を出して、「帰らないよ」という顔をする。近所の商店街の隅を縦一列になって、「歩いていたわよ」と前の焼鳥屋のおばさんが、タバコを買いに出た俺に、クックッ笑いながら教えてくれた。ときどき、我が家の猫に焼き鳥を与えているらしく、俺に馴れ馴れしい態度をする。魚屋で小鰺を一盛り買い求め焼いていたら、いつのまにか万年コタツの周りに、猫たちは帰っていた。耳が立ち、薄目がピクピクしているのが可笑しい。半日の家出だった。帰ってこなけりゃ、せいせいしたのに。次回はミルフルの巻。

(敬称略)