私は外国に住んだ経験はないが、留学したり、赴任したり、外国居住経験のある知人を何人か知っている。彼らが異口同音にいうのは、日本のマスメディアの質の低さである。世界で何が起きているのか、何が問題とされているのか、次の情勢はどうなるのか、日本の新聞や雑誌を読んでいては皆目わからないというのだ。彼らの念頭にあるのは、もちろん、欧米のマスメディアである。そういうものかと思いながら、そうだろうかという疑問もあるが、私には検証する術(すべ)がない。私の眼には入らないが、どこかに真実に迫る報道をするマスメディアがあるという話に、悪い気はしない。どこかで誰かが正しい情報に基づく正しい判断をして、私たちの地球を守ってくれているのなら、極東のジャパニーズとしては、その誰かの後を従いていけばいいのだから、楽チンでもある。そんな呑気な気分を今朝の読売新聞の「編集手帳」が吹き飛ばしてくれた。日本のマスメディアが、低劣で、役に立たない、とはいったいどういうことなのか。最近のフィナンシャル・タイムズの記事と読み比べてみると、よくわかる。小学生に読ませても、高学年なら、どちらの記事が、「低劣で、役に立たないか」、直ちに理解できるだろう。いうまでもないが、「編集手帳」は朝日新聞の「天声人語」と並び、日本で最大部数を誇る新聞の代表的なコラムである。
12月18日付 編集手帳
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/column1/news/20091217-OYT1T01566.htm
歩行者用の信号に立ち止まり、はるか昔、小学校の理科の授業が頭をよぎるときがある。青に変わったらアルカリ(歩け)――液体や気体が酸性かアルカリ性かを判定するリトマス試験紙の色の変化を、そう教わった◆手品のように色が変わっていく様子に目を凝らした覚えがある。国の政策にも、「適切」と「不適切」を判定するリトマス試験紙があったならば、どんなにか便利だろう。外交・安全保障の分野に限れば、じつはある◆核をもてあそび、ひとさまに向けて弾道ミサイルを発射する隣国が喜ぶ政策は「不適切」と判定して、まず誤りはない◆朝鮮中央通信によれば、北朝鮮の政府機関紙『民主朝鮮』が普天間問題をめぐる鳩山政権の対応を称賛したという。「沖縄住民はもちろん、日本社会の全面的な支持を得ている」と。日米両国を結ぶ信頼の絆(きずな)が弱まるのを期待してだろう。家の周囲をうろつく挙動の怪しい人物から、「その調子、その調子」と戸締まりを褒められてどうする◆“北朝鮮試験紙”の色の変化を見れば、鳩山政権がたどりつつある外交の道にともる信号は「赤」(止まれ!)である。
(2009年12月18日01時59分 読売新聞)
「日米関係、楽だった結婚が三角関係に変わってしまった」
フィナンシャル・タイムズ 2009年12月10日初出 フィリップ・スティーブンズ
http://news.goo.ne.jp/article/ft/world/ft-20091216-01.html
(中略)
鳩山由紀夫代表率いる民主党の勝利は、自民党による約半世紀にわたる一党支配に終わりを告げ、日本政治に革命をもたらした。日本の政治権力が、アメリカの忠実な仲間だった自民党から対抗勢力に移ってしまったことの重大性を、米政府は把握しかねている。
自分たちを取り囲む地政学的な情勢変化にどう対応すべきか、両国の考え方は食い違ってきている。基地問題をめぐる議論はいわば、その食い違いの避雷針のようなものだ。日米両政府が直面する戦略課題は、台頭する中国の地域的野心をいかに抑制しつつ、いかに中国と関係を結んでいくかというもの。日米はこの同じ課題を抱えているのだが、実際にどうするかというのは難しい問題だ。
これまでの日米関係を形作ってきたのは、まずは進駐米軍による占領行為、続いて冷戦下での同盟堅持の必要性、そしてつい最近まで圧倒的に続いていたアジアにおける米国覇権だった。しかし世界は変わり続ける。日米夫妻の寝室にいつしか中国が入り込み、あんなに居心地のいい結婚生活がぎくしゃくした三角関係に様変わりしてしまったのだ。
50年も続く日米安保条約を破棄しろなどとは、誰も言っていない。米軍のプレゼンスと核の傘は、核武装した北朝鮮から日本を守っているし、近代化し続ける中国軍を前に日本の安全を保障している。さらにこの同盟関係を通じて中国は日本の意図を把握するし、同時にアメリカは東アジアに巨大な軍事的存在感を示すことができるのだ。
しかし日米同盟はそもそも、中国が台頭する以前の世界の心理状態をもとに作られたものだ。世界の現状と合わなくなってきていることは、基地問題の紛糾ぶりからも明らかだ。鳩山氏は、普天間の海兵隊ヘリ基地移設合意を再検討すると公約して選挙戦を戦った。そして鳩山氏は今のところ、その公約を守っている。おかげでワシントンは落胆しているのだ。
(中略)
12月18日付 編集手帳
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/column1/news/20091217-OYT1T01566.htm
歩行者用の信号に立ち止まり、はるか昔、小学校の理科の授業が頭をよぎるときがある。青に変わったらアルカリ(歩け)――液体や気体が酸性かアルカリ性かを判定するリトマス試験紙の色の変化を、そう教わった◆手品のように色が変わっていく様子に目を凝らした覚えがある。国の政策にも、「適切」と「不適切」を判定するリトマス試験紙があったならば、どんなにか便利だろう。外交・安全保障の分野に限れば、じつはある◆核をもてあそび、ひとさまに向けて弾道ミサイルを発射する隣国が喜ぶ政策は「不適切」と判定して、まず誤りはない◆朝鮮中央通信によれば、北朝鮮の政府機関紙『民主朝鮮』が普天間問題をめぐる鳩山政権の対応を称賛したという。「沖縄住民はもちろん、日本社会の全面的な支持を得ている」と。日米両国を結ぶ信頼の絆(きずな)が弱まるのを期待してだろう。家の周囲をうろつく挙動の怪しい人物から、「その調子、その調子」と戸締まりを褒められてどうする◆“北朝鮮試験紙”の色の変化を見れば、鳩山政権がたどりつつある外交の道にともる信号は「赤」(止まれ!)である。
(2009年12月18日01時59分 読売新聞)
「日米関係、楽だった結婚が三角関係に変わってしまった」
フィナンシャル・タイムズ 2009年12月10日初出 フィリップ・スティーブンズ
http://news.goo.ne.jp/article/ft/world/ft-20091216-01.html
(中略)
鳩山由紀夫代表率いる民主党の勝利は、自民党による約半世紀にわたる一党支配に終わりを告げ、日本政治に革命をもたらした。日本の政治権力が、アメリカの忠実な仲間だった自民党から対抗勢力に移ってしまったことの重大性を、米政府は把握しかねている。
自分たちを取り囲む地政学的な情勢変化にどう対応すべきか、両国の考え方は食い違ってきている。基地問題をめぐる議論はいわば、その食い違いの避雷針のようなものだ。日米両政府が直面する戦略課題は、台頭する中国の地域的野心をいかに抑制しつつ、いかに中国と関係を結んでいくかというもの。日米はこの同じ課題を抱えているのだが、実際にどうするかというのは難しい問題だ。
これまでの日米関係を形作ってきたのは、まずは進駐米軍による占領行為、続いて冷戦下での同盟堅持の必要性、そしてつい最近まで圧倒的に続いていたアジアにおける米国覇権だった。しかし世界は変わり続ける。日米夫妻の寝室にいつしか中国が入り込み、あんなに居心地のいい結婚生活がぎくしゃくした三角関係に様変わりしてしまったのだ。
50年も続く日米安保条約を破棄しろなどとは、誰も言っていない。米軍のプレゼンスと核の傘は、核武装した北朝鮮から日本を守っているし、近代化し続ける中国軍を前に日本の安全を保障している。さらにこの同盟関係を通じて中国は日本の意図を把握するし、同時にアメリカは東アジアに巨大な軍事的存在感を示すことができるのだ。
しかし日米同盟はそもそも、中国が台頭する以前の世界の心理状態をもとに作られたものだ。世界の現状と合わなくなってきていることは、基地問題の紛糾ぶりからも明らかだ。鳩山氏は、普天間の海兵隊ヘリ基地移設合意を再検討すると公約して選挙戦を戦った。そして鳩山氏は今のところ、その公約を守っている。おかげでワシントンは落胆しているのだ。
(中略)