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いつも何度でも

2014-12-10 00:04:00 | 今週の箴言
幸せというのは、
その人の考え方ひとつです。
でもあなたは、
幸せになりましょうね。


アーウィンスペシャルアドバイザー
デヴィ・スカルノ
http://www.ahrwin.com/

西武線の車内広告でみかけて気になりました。アーウィンという女性専門の探偵会社の広告から、正対したデヴィ夫人が語りかけています。

広告ですから、コピーライターが創作したコピーなのか、夫人に取材して聞き出した言葉から考案したのか、あるいは講演などでご本人が決め言葉としてよく使っているフレーズなのか、いずれにしろ、デヴィ夫人なら言いそうな言葉です。

「でも」がみごとです。たった2行、38字を逆接でつなぐなんて、ふつうは違和感がともなって通用しないものですが、なかなかの力業を振るっています。「幸せとは」と大上段にはじめ、「その人の考え方ひとつ」と「人それぞれ」という一般論を述べ、おもむろに聴衆を見回すように、「でもあなたは」と一人だけを見つめ、「幸せになりましょうね」と遂行的な言葉で締めています。

「その人-あなた」と繋がり続くことで、「でも」の逆接を弱めるだけでなく、「考え方」に対して「行為・行動」というべつの逆接を含意しているのでしょう。「たとえば、探偵さんを使うのも悪い手じゃないことよ」と夫人は続けるかもしれません。夫の浮気に悩み苦しんでいるなら、不倫の証拠を握って、がっぽり慰謝料でもとって離婚し、新しい人生をはじめなさい、というわけでしょうか。

でも、そんな風に下世話に読むばかりではもったいないと思います。「でもあなたは」という接近には、ちょっとまごつくほど心動かされませんでしたか? 衆議員選挙戦に突入して、「国民の」「みなさんの」「額に汗して働く人々の」「お母さん方の」「高齢者の」「若者の」という空虚空疎な呼びかけに食傷しているためばかりではないでしょう。

「でもあなたは」は、「でもわたしは」を含んで、なにか行為や行動を起こすときの、やはり呼びかけなのです。その結果はまだ見えていないし、したがって思いどおりの結果が得られるとはかぎりません。でもとりあえず、なにか具体的に動きましょう、あなたも、わたしも、あなたの幸せとわたしの幸せのために。

いやいや、だから選挙に行きましょう、投票しましょう、なんてことではありません。選挙に行く、投票する、「それはその人の考え方」というのも一般論だとデヴィ夫人はいっているのです。うがっていえば、思考停止だと、下世話にいえば、下手な考え休むに似たりじゃないですかと。

「でも」といったん逆接して、「あなたは」という個に戻り、あなただけの「幸せ」をつかみましょう。それはただの論理の飛躍に過ぎず、いかがわしいバイブル商法や自己啓発セミナーで多用される、分断して洗脳するために、「あなた」を連呼すのと似ているかもしれません。

それでも、たいていの言説に向かって、「でもあなたは」という逆接を対比してみる意味はあるのではないでしょうか。「でもあなたは~する」「でもあなたは~しない」、いつも何度でも。

いつも何度でも -Nataliya Gudziy


(敬称略)
コメント
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