コタツ評論

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マダムダワイ!

2016-02-28 23:45:00 | ノンジャンル
朝5時起床、朝の冷え込みはかなり緩んだ気がする。いつものようにCATVの「日テレNEWS24」をつける。ニュース専門チャンネルとしては、「TBSニュースバード」に比べると速報性や内容の詳細さではあきらかに劣っているが、色っぽい舟橋明恵アナを視たくて、第一選択になっているのだ。「本日のニュース」がだいたい把握できたら、「TBSニュースバード」に変えることが多いが、今朝はNNNドキュメント(山口放送制作)の再放送 「奥底の悲しみ」に見入ってしまった。

たしかに、NHKの「新・映像の世紀」の膨大なアーカイブを背景とする編集映像には圧倒される一方、どこか「世界史」のお勉強の感が否めず、やがて平板に思えてくるのに対し、ほとんどひとりずつが語るだけで単調に構成されたこの動画の迫真性こそ圧巻だった。泣き叫ぶことなどなく、むしろ淡々と、ときおり笑みさえまじえながら、しかし堰を切ったような思いが溢れた彼らの表情、言葉のすべて。それらは世界史に記述される戦争の証言(記憶)にとどまらず、記憶の戦争について物語るものだった。言葉遊びではない。

満州から引き揚げる途上の新京で死んだ母について、当時少年だった枌谷(そぎたに)勝二さん(79)は、いまでも母を思い出すとき、元気で優しかった頃ではなく、痩せさばらえているのに腹水がたまって異様に腹が膨らみ、きょときょと眼球だけを動かしていた顔以外には浮かばないと語っている。

五木寛之はいつのまにか、抹香臭いエッセイの書き手になったが、父母や幼い弟妹と敗戦後の平壌から引き揚げてきた記憶については、いまだに書かない。書けないと書いていた記憶もあるが、「マダムダワイ!」という言葉を聞いたはずの五木だけでなく、日常が地獄と化した記憶の戦争が今も続いている人々についてあらためて知った。現在も、シリア難民だけでなく、言語は違えど、「マダムダワイ!」という言葉に震撼する、父や母、娘や息子、姉や妹、兄や弟、あるいは祖父や祖母や孫までがいる現実は続き、沈黙もまた続いているはずなのだ。

すまない。今夜11時BS日テレで再放送なのだが、時間を過ぎてしまった。

Sorrw in the Depths
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Sorrw in the Depths 投稿者 gataro-clone

追記(3/7):拍手コメントから、五木寛之は「運命の足音」という随筆集で、朝鮮からの引き揚げについて書いているという指摘をいただきました。ありがとうございます。検索したら下記にありましたので、お詫びして訂正いたします。http://homepage2.nifty.com/taejeon/kaiho/kaiho-35c.htm

(敬称略)
コメント
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