トレジャーハンター・クミコ
https://eiga.com/movie/82905/
これは菊地凛子の眼力の映画である。というか、菊地凛子はその眼力以外はこれといった印象を残さない。そんな存在の希薄さがテーマの作品といえる。といっても、この映画のタイトルはもちろん、菊地凛子という女優の名前すら知らない人が多いでしょう。
とはいいつつ、私にしろ菊地凛子については、「メキシコの鬼才アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の「バベル」(06)で第79回アカデミー助演女優賞にノミネートされ、一躍国際派女優となる。」くらいの知識しかなかったわけで、このブログのどこかに書いた覚えのある「バベル」の感想において、菊地凛子が演じた「女子高生」役に不満や不足以外を感じませんでした。
リュック・ベッソン製作でジャン・レノ主演のフランス映画「WASABI」で広末涼子が演じた「女子高生」と同様に、一種のフィギュアとして日本の「女子高生」や「小ギャル」が海外でも流通消費されているのだなあと思ったくらい。たぶん、「村上隆」経由で。
とかなんとか、読み手の関心を少しでも引き寄せたいと書けば書くほど、一般性から離れていく気がするのだが、この映画はちょっと不思議な佇まいなのですね。クミコという主人公のいずまいというか。菊地凛子は主演だけでなく、製作にも名を連ねているので、もしかするとそれは女優自身にも重なっているのかもしれません。
いま<NETFLIX>で「トレジャーハンター・クミコ」が配信されていることを知り、無料動画サイト<GYAO!>で観たことを思い出したのだが、より正確にいえば、こんな映画をどうして最後まで観てしまったんだろうと思ったことを思い出した次第です。
前置きばかり長くて、なんだかよくわからない? その通り、この映画がまさにそれです。若くもなく、きれいでも可愛くもなく、まじめでもない、たいしたことのない企業の制服OLが、アメリカはノースダコタ州で凍死体となるまでの「前置き」がほとんどを占めるのだから、「なに、これ?」ってなります。
「物語」ではなく「前置き」とするのは、クミコが自身に何も思い入れていないからです。クミコが思い込んでいるのは、雪原に埋まっているはずのドル札の詰まったスーツケースを見つけることだけです。
そんなクミコのトレジャー・ハンティングのきっかけと最初の道案内をしてくれるのは、勤務する会社の法人クレジットカードとその無断使用という無機質なお手軽感からして、感情移入のしようがありません。
ということで、同じ映画を観るなら、もっと気晴らしになるような、おもしろくてためになるような、いろいろな映画がたくさんあるのだから、いや、だからこそ、「不思議な映画」は珍しいのだが、いや、困ったな。
お勧めしていいものか、まだ迷っている。そうそう、「困ったちゃん」の映画でもある。「困ったちゃん」が一心不乱になると、「都市伝説」になるというものです。そうしたファンタジー、寓話性を担っているというか、ほかに見当がつかないものとして、菊地凛子クミコの眼力に行き着きます。
とかいっちゃって、下げに下げたハードルを少し上げましたが、もう少し解説めいたことを試みれば、終盤に近づき、クミコがまとうモーテル備え付けの一枚のベッドカバー、その鮮やかな色彩が雪原を行くあたりから、この映画は真の姿を現します。
「困ったちゃん」が一心不乱になって「伝説」になるといえば、そう、ドン・ドン・ドン、ドンキい、ドンキホーテえ~♪ あのベッドカバーはクミコのまさしく鎧兜に羽飾り、さらに疑いなくサンチョ・パンサも従えています。タイトルに偽りなし。女だてらに男伊達の冒険の旅なのです。
クミコのクミコのためのクミコだけの旅。いっさいがっさいの裏づけや保証や認知すらない冒険の旅のクライマックスに向けて歩む、クミコの口許に浮かぶ笑みと黒々とした瞳。そのとき、身を包むベッドカバーは金糸銀糸で織られた王の衣装の如く屹立しています。たとえ、大きすぎるどてらのように見えたとしても。
あなたもきっと、(なんでまた、こんな映画を観ちゃったんだろうな)そう思うこと請け合います。同時に、「そなたはどうじゃ?」というクミコのかすかな声が聴こえてくるかもしれません。私のように。
(止め)
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