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山本太郎の第一声

2013-07-22 11:21:00 | 政治
選挙速報番組は投票が締め切られてから2時間が見どころです。視るならもちろんNHK。2時間過ぎてからの選挙速報番組は1分たりとも視る価値はありません。なぜか。肝心なところが編集されて消されることがあるからです。激戦の東京選挙区で「泡沫」の下馬評を覆して当選した、山本太郎の「当確場面」を視た人ならわかるはずです。

当確が出たとき、NHKは山本太郎の選挙事務所から生中継しました。第一声をとるためです。マイクを向けられ、「いまの率直なお気持ちを」とうながされた山本太郎は、こう話しはじめました。

「率直な気持ちとしては、このまま浮かれていいるわけにはいかない。これはスタートラインに立ったに過ぎない。茨の道はこれからはじまると思うんですね」

続けて、山本太郎は、これから参議院議員として何をやりたいのか、そのやりたいことの背景として、どんな問題があるのか、早口ながら落ち着いて述べました。私はそれまで山本太郎に何の関心もありませんでしたが、初当選なのに、「ありがとうございます。投票してくださった皆様のおかげです」といった言葉を吐かず、笑顔も見せず、すぐに本題に入ったのには感心しました。

なぜ、この「当確」の場面しか価値がないのか。当選者の第一声は生中継されるので、何を云っても放送されるからです。2度目以降から「当選確実が出た瞬間の山本陣営の喜びにわく様子」の映像では、この第一声も取捨選択されています。編集される前、生中継されたときの山本太郎の第一声はこう続きました。

なによりいちばんやってほしいことは食品の安全基準を変えることですね。1kg当たり100ベクレルというのは放射性廃棄物と同等なんです。低レベル放射性廃棄物、それを国民に食べさせて安全とする政府や国なんて話にならないんですよね。国民全員が低線量被曝しろっていう話ですよね。農家や生産者に賠償をするのは当然の話、それを逃げているのが東電であり、国なんですね

この本題の部分は、第一声の生中継時のみ放映され、それ以降、繰り返し紹介された「第一声」では、すでに跡形もなく消されていました。

当確第一声の映像は、私たちに多くのことを教えてくれます。涙ながらに有権者に礼を述べる演歌歌手のリサイタルのような第一声、あるいは「子どもたちの将来のために」とか、当たり障りのない第一声(羽田孜の息子よ、君のことだ)があります。

山本太郎の第一声に接すると、そんなものだとあたりまえに思ってきた、歓喜と感激の第一声に違和感が芽生えます。

「厳しい局面に立たされた日本」の政治経済の舵取りをすることは、それほど楽しく愉快な仕事には思えないのですが、まるで難関大学に合格した受験生のように、感謝感激雨あられの第一声ばかりなのは、考えてみれば不思議なことです。あるいは、それほど歓喜するなら、よほど何かいいことあるのではないかと疑いたくなります

私たちが投票前の選挙運動から知り得ることは、じつはあまり多くありません。すでに知っているか、知る必要もないことばかりです。政党の員数合わせではなく、その人が政治の場で何をやりたいのか、何をやろうとしているのか、本気なのか、陣営という周囲にその力はあるのか、そうした判断の材料は、投票後の第一声において、かなり得られるのではないでしょうか。

もちろん、すでに「祭りの後」です。「ケンカ過ぎての棒ちぎれ」です。ですが、何かを知ることに、遅きに失するということはありません。自民党が圧勝しようと、原発が再稼働されようと、憲法が改悪されようと、TPPに加盟して地方都市がデトロイトのように荒廃しようと、中国や韓国との国境紛争がエスカレートして戦争になろうと、私たちはこの日本で、生きて死んでいくのですから。

山本太郎の第一声の核心は3:40秒から。

当確確認時 山本太郎選挙事務所の様子


(敬称略)

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