コタツ評論

あなたが観ない映画 あなたが読まない本 あなたが聴かない音楽 あなたの知らないダイアローグ

かもめ食堂

2010-10-14 01:24:00 | レンタルDVD映画



おれ:「かもめ食堂」を観た。

かれ:ハリウッドのアクション映画か、ホラー映画、イギリスの犯罪映画を好む君としては、邦画とは珍しいね。

おれ:レンタルDVDとはいえ、金払ってみるわけだから、「史上空前の製作費」でなくても、それなりに予算がかかった映画を優先するのは人情だろう。

かれ:世界市場を相手にする欧米の映画に比べると、低予算の日本映画は見劣りするな、たしかに。

おれ:セットとか衣装がちゃちだよな。もう、AVがラブホで撮影するのと見分けがつかないこともある。かと思うと、そんな家どこにあるんだと思うような、縁側にガラス戸の昭和初期みたいな家が、わざとらしく出てきたりして失笑することもある。

かれ:俳優は誰が出ているの

おれ:小林聡美、もたいまさこ、片桐はいり。
かれ:これまた、君らしくない。

おれ:うん、俳優としてもだが、女性としても誰一人興味がない。

かれ:ふーん、君は女優をまず女性として見るわけだ。それも自分の彼女あたりに置き換えて。

おれ:そうだよ、悪いかい。

かれ:まあ、いいけど。少なくともセクシーとはほど遠い面々だな。

おれ
:たしかにそうだが、小林聡美はだんだんキレイに見えてくるよ。もたいまさこ、片桐はいりが横にいるせいかもしれないが。

かれ:一言でいうと、どんな映画なの? 

おれ:女性映画だね。この3人が、フィンランドはヘルシンキで「かもめ食堂」という和食屋をやるというだけの話し。山なし落ちなし意味なしのやおい映画でもある。

かれ:よかった?

おれ:うん、わるくなかった。清澄なフィンランドの空気感に3人がなじんで、心地よい微風がそよいでいるようだった。東京の街やマンションが舞台だったら、この3人がちょっと妖精的に見えるなんて考えられないからな。

かれ:君らしくなく健全な映画を観たようだね。以前、ベルギーだかの「変態村」シリーズに感心していたのにな。

おれ:僕も意外だった。丁寧な言葉づかいで、いつも淡々としていて、食堂が舞台だから、美味しそうな料理が出てくる。といっても、肉じゃがや卵焼き、豚肉の生姜焼き、トンカツ、鳥の唐揚げ、おにぎりといった家庭料理。そして、シナモンロール。そう、お母さん映画でもあるな。

かれ:ますます君らしくない。君は、母物嫌いだったろ。

おれ:そう、母親みたいな女はイヤだからね。しかし、この映画に息子は出てこない。というか、男というのがほとんど出てこない。日本かぶれの少年が「かもめ食堂」のはじめての客となるが、彼もいわゆるオタクであって、ゲイとかと同じ位置づけだな。「かもめ食堂」の前にあった潰れたレストランの店主が入ってきて、美味しいコーヒーの入れ方を小林聡美に伝授するけど、ロマンスが生まれることはなく、二度目の出会いはドロボーに間違えられて消えていくだけ。どこまでも3人の日本女や夫に逃げられたフィンランド人の中年女の心の淡い交流が描かれるだけ。男と関係なく生きていく女たちの物語なんだよ。

かれ:しがらみのない異国で、気の合う友だちと男にわずらわされず、小さな店を切り回して、美味しいものをつくって食べる、平凡な女性の夢なんだろうな。

おれ:癒しの映画というわけだ。心地よいことだけを差し出した。

かれ:ふーん。

おれ:わかるよ、ちょっと反発したいよな。でもね、どのような意味でも、プロパガンダ色を排した、こんなストイックなくらい平明な映画というのも珍しいぜ。ネットをみれば、破壊と暴力と激情、それに冷笑に満ちて、うんざりさせられるばかりだ。のんびりゆっくりといえば、嘲笑されるだろうが、個人に帰ってみれば、そう珍しいありようでもないよな。そういう普通の人生を映画にできる日本映画界の立ち位置は、わるくない気がするんだ。少なくとも、フィンランドのような田舎国で、ありふれた日本女性のささやかな日常を映画にしようという作り手は、ハリウッド進出とか、カンヌ映画祭受賞を狙う映画づくりより、志しが高い気がする。

かれ:ははは、やっぱり志しは高くなくちゃダメなのか。

おれ:まあ、志しとか関係ない映画だろうな。そういう考え方の枠組みが終わった後に出てきた物語だから。いや、物語ともいえないな。何かを伝えるということは、あまりしてないからな。できるけれどやらない、そういう意味では贅沢な映画かもしれないな。ただな、もたいまさこが空港で紛失して戻ってきた、カバンの中味の意味がよくわからなかったな。彼女の狂気の一端を示したつもりだろうが、蛇足に思えた。そのくらいしか、首を捻るところはなかったよ、お勧めだね。

かれ:わかった。映画史的な位置づけというか、映画ジャンル分けに困っているようだね。

おれ:お勧めといえば、『鴨川ホルモー』に続いて読んだ、万城目学の『鹿男あをによし』が前作に勝るとも劣らない出来でね。今度は、奈良が「愛と精霊の家」になるんだ。グリコのポッキーが好きな奈良公園の鹿が重要な役割を果たすという、口あんぐりの展開。次回は、この小説の話しをしよう。

(敬称略)










コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« セックス統計学 | トップ | 降参した歌 n »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

レンタルDVD映画」カテゴリの最新記事