コタツ評論

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そこ、静かに

2013-08-02 01:21:00 | 政治
最近の安倍首相のスピーチはわるくありません。野田首相や菅首相より、はるかに考え抜かれた言葉を選んでいます。優秀なスピーチライター(たち)がついたのでしょう。麻生太郎さんにも必要ですね。麻生さんのスピーチは・・・、ま、読めばわかります。

麻生発言の1

韓国の朴槿惠(パク・クネ)大統領の就任式に出席して会談した際に、朴槿惠大統領から、日本の歴史認識の問題を指摘されて、以下のように返したそうです。

米国を見てほしい。米国は南と北が分かれて激しく戦った。しかし南北戦争をめぐり北部の学校では相変わらず“市民戦争”と表現するところがある一方、南部では“北部の侵略”と教える。このように同じ国、民族でも歴史認識は一致しないものだ。異なる国の間ではなおさらそうだ。日韓関係も同じだ。それを前提に歴史認識を論じるべきではないだろうか

日朝併合史にアメリカの内戦史を例示する不適切さは誰でもわかるでしょう。また、アメリカの北部では南北戦争を市民戦争といい、南部では北部の侵略戦争と呼ぶほど、同じ国でも歴史認識は違うのだから、異なる国の日韓ではなおさら、とつなげています。

韓国では日本の侵略戦争といい、日本では○○戦争と呼んでいる、この文脈ならそう続けなければなりません。はたして、アメリカ北部人がいう市民戦争に相応するような、非侵略戦争の呼称が日本にあるのでしょうか? 北部の人々の“市民戦争”のように、非侵略戦争である○○戦争という呼称や定義が日本側にあり、大部分の日本人がそれに同意しているでしょうか? 

自衛戦争? 歴史上、ほとんどの戦争は自衛戦争の名目と大義において戦われたといわれています。イギリスが中国に仕掛けたアヘン戦争など、「自由貿易を守る」という自衛より気高い大義がありました。非侵略戦争である○○戦争がなければ、この例示はまったく無意味といえます。無意味なことを得々と語る人を、たいていの人は何と呼称し定義するでしょうか。

新聞記者相手の居酒屋談義ならともかく、大統領就任式後の公式会談で、麻生さんが朴大統領にこんな妙ちきりんな歴史談義をしたのに呆れましたが、それさえどうも自分の頭で考えたのではなく受け売りらしいということを最近知って、さらにがっかりしました。

米バージニア州にあるアーリントン国立墓地は、米大統領や、日本や韓国を含む多くの外国の指導者たちが訪れる。埋葬されている兵士の中には南北戦争中、奴隷制を支持する南部のために戦った者がいるにもかかわらず、である。今日、先進的な世界の大方で奴隷制は容認されていないが、それを信奉した南軍の兵士たちは墓地から排除しなければならない、と要求する者は誰もいない(ジェームス・E・アワー) 

よく似た話でしょう? このジェームス・E・アワーさんのインタビューを読み直すと、南北戦争のとらえ方において、北部と南部の歴史認識は違う、日韓ではなおさら、という話をアメリカ人がしたのなら、なるほどと思える例示といえます。自国の南北戦争に引きつけてみせることで、南部人と同様に侵略戦争と言い募る韓国に悩む日本人へリップサービスとしては、有効な説話なのだろうと考えられます。

ジェームス・E・アワーさんは、日本人と会う度にこの話を繰り返し、そのなかに麻生さんも含まれていて、話に感じ入ったのでさっそく朴槿惠大統領会談に使ってみたというところかもしれません。麻生さんをはじめ政治家の「僕はアメリカに友人知己が多くてね」とは、この程度のことが多いようです。

しかし、たぶん、韓国人に対して、それも公式会談の席上ならなおさら、ジェームス・E・アワーさんは、靖国神社=アーリントン国立墓地や日韓関係に南北戦争の歴史認識の違いを例示する説話は、けっしてしないはずです。

麻生発言の2

さて、今回問題になった、「憲法改正はナチスの手口を学べ」発言が以下です。麻生さんは、昨夜、「ナチスの例示は不適切として撤回する」と記者発表しました。

僕は今、(憲法改正案の発議要件の衆参)3分の2(議席)という話がよく出ていますが、ドイツはヒトラーは、民主主義によって、きちんとした議会で多数を握って、ヒトラー出てきたんですよ。ヒトラーはいかにも軍事力で(政権を)とったように思われる。全然違いますよ。ヒトラーは、選挙で選ばれたんだから。ドイツ国民はヒトラーを選んだんですよ。間違わないでください。

ええっ、ヒトラーは強権ではなく、民主主義によって国民から選ばれて総統になったのか! 知らなかった、そうだったのか、驚いたという反応を期待しています。

そして、彼はワイマール憲法という、当時ヨーロッパでもっとも進んだ憲法下にあって、ヒトラーが出てきた。常に、憲法はよくても、そういうことはありうるということですよ。ここはよくよく頭に入れておかないといけないところであって、私どもは、憲法はきちんと改正すべきだとずっと言い続けていますが、その上で、どう運営していくかは、かかって皆さん方が投票する議員の行動であったり、その人たちがもっている見識であったり、矜持(きょうじ)であったり、そうしたものが最終的に決めていく。

ドイツの憲法が不備だったから、ヒトラーが政権を簒奪できたのかといえば、そうではなく、当時のワイマール憲法は世界で最も先進的な民主的憲法でした。すばらしく民主的な憲法下であっても、独裁政権は誕生することに注意を促しています。ここまでは前段落の続きです。ここから先が意味不明。改正後の憲法の運営について話が飛んでいるようです。

ヒトラーとナチスの「行動」「見識」「矜恃」がドイツ国民の熱狂的な支持を受けたのと同様に、大日本帝国の「行動」「見識」「矜恃」も国民の圧倒的な支持を受けて、第二次世界大戦につながったわけです。しかし、自民党議員の「行動」「見識」「矜恃」はヒトラーやナチス党とは違って、ちゃんとしたものです、といいたいようです。

私どもは、周りに置かれている状況は、極めて厳しい状況になっていると認識していますから、それなりに予算で対応しておりますし、事実、若い人の意識は、今回の世論調査でも、20代、30代の方が、極めて前向き。一番足りないのは50代、60代。ここに一番多いけど。ここが一番問題なんです。私らから言ったら。なんとなくいい思いをした世代。

バブルの時代でいい思いをした世代が、ところが、今の20代、30代は、バブルでいい思いなんて一つもしていないですから。記憶あるときから就職難。記憶のあるときから不況ですよ。この人たちの方が、よほどしゃべっていて現実的。50代、60代、一番頼りないと思う。しゃべっていて。おれたちの世代になると、戦前、戦後の不況を知っているから、結構しゃべる。しかし、そうじゃない。


憲法改正について、20代、30代がきわめて前向き、就職難と不況から現実的に憲法改正を考えている。戦前戦後の不況を知っている麻生さんのような70代とは話が合うが、ひきかえバブル経済でいい思いした50代、60代が後ろ向きで問題。世論調査の分析らしいが、前後の文章とつながりません。

しつこく言いますけど、そういった意味で、憲法改正は静かに、みんなでもう一度考えてください。どこが問題なのか。きちっと、書いて、おれたちは(自民党憲法改正草案を)作ったよ。べちゃべちゃ、べちゃべちゃ、いろんな意見を何十時間もかけて、作り上げた。そういった思いが、我々にある。そのときに喧々諤々(けんけんがくがく)、やりあった。30人いようと、40人いようと、極めて静かに対応してきた。自民党の部会で怒鳴りあいもなく。

『ちょっと待ってください、違うんじゃないですか』と言うと、『そうか』と。偉い人が『ちょっと待て』と。『しかし、君ね』と、偉かったというべきか、元大臣が、30代の若い当選2回ぐらいの若い国会議員に、『そうか、そういう考え方もあるんだな』ということを聞けるところが、自民党のすごいところだなと。何回か参加してそう思いました。

時間をかけて静かに話し合って、自民党の憲法改正草案をつくりました。若手と長老議員が対等に考えを述べ合いました。党内民主主義の場においても、50代、60代が後ろ向きで問題だったと言外に云いたいのでしょうか。

ぜひ、そういう中で作られた。ぜひ、今回の憲法の話も、私どもは狂騒の中、わーっとなったときの中でやってほしくない。

狂騒がいきなり出てきます。ナチスを支持したドイツ国民の熱狂をいいたいのでしょうか。しかし、圧倒的な支持を狂ったような騒ぎとはいいません。あるいは、現在の憲法改正論議が狂騒といえるほど、改正反対論が多いということでしょうか。賛成と反対があってはいけないのでしょうか。

靖国神社の話にしても、静かに参拝すべきなんですよ。騒ぎにするのがおかしいんだって。静かに、お国のために命を投げ出してくれた人に対して、敬意と感謝の念を払わない方がおかしい。静かに、きちっとお参りすればいい。

静かに党内議論して憲法改正草案をつくりました。靖国神社も静かに参拝すべきです。どうも、「静かに」がキーワードのようです。

何も、戦争に負けた日だけ行くことはない。いろんな日がある。大祭の日だってある。8月15日だけに限っていくから、また話が込み入る。日露戦争に勝った日でも行けって。といったおかげで、えらい物議をかもしたこともありますが。

僕は4月28日、昭和27年、その日から、今日は日本が独立した日だからと、靖国神社に連れて行かれた。それが、初めて靖国神社に参拝した記憶です。それから今日まで、毎年1回、必ず行っていますが、わーわー騒ぎになったのは、いつからですか。

昔は静かに行っておられました。各総理も行っておられた。いつから騒ぎにした。マスコミですよ。いつのときからか、騒ぎになった。騒がれたら、中国も騒がざるをえない。韓国も騒ぎますよ。だから、静かにやろうやと。憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。

だから、憲法改正も「静かにやろうや」と麻生さんはいっています。ある日気づいたら、だれも気づかないで変わっていた。ワイマール憲法がナチス憲法に変わった手口から学び、騒ぎを起こさず静かに変えようと麻生さんは云っています。

わーわー騒がないで。本当に、みんないい憲法と、みんな納得して、あの憲法変わっているからね。ぜひ、そういった意味で、僕は民主主義を否定するつもりはまったくありませんが、しかし、私どもは重ねて言いますが、喧噪(けんそう)のなかで決めてほしくない。

冒頭で、民主主義がヒトラー政権を選んだという話をしたのは、独裁者を生み出しかねない大衆民主主義の陥穽について警告したのではなく、ヒトラーは上手く立ち回ったという意味だったんですね。ようやくわかりました。たしかにヒトラーは民主的手続きを踏んで政権をとりましたが、ワイマール憲法を破棄して総統になってからは、独裁強権の政治を敷きました。

というより、独裁強権の政治を敷くために、まずワイマール憲法を破棄して新憲法をつくったことを指して、「僕は民主主義を否定するつもりはまったくありません」と気張っていいのでしょうか。また、いうまでもないことですが、「みんないい憲法と、みんな納得して、あの憲法変わっているからね」と「だれも気づかないで変わった」は明らかに矛盾しています。

ふ-っと。疲れました。不適切といえば、ほとんどの例示が不適切です。全文を検討してようやく意味がとれそうなのは、「憲法改正はナチスに学べ」だけです。つまり、例示らしき例示はナチスだけといえます。したがって、「ナチスの例示を撤回」すれば、まったく無意味な話になります。

この発言には当然のごとく、国内はもちろん、すでに中韓に火をつけ、ナチスを糾弾するユダヤ人団体まで抗議の声を上げています。すなわち、日本の憲法改正論議を「静かに」どころか、「喧噪」に投げ込みました。こういう自らの主張と逆な結果を招く発言をする人を、私たちは一般に何と呼称し定義するでしょうか。



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