コタツ評論

あなたが観ない映画 あなたが読まない本 あなたが聴かない音楽 あなたの知らないダイアローグ

嘘つき

2001-09-08 18:40:00 | ダイアローグ
嘘つき

囁き声は
耳から零れて
足下に溜まって
散り散りに
逃げていく

黙っているのは
さっきから
何も云わないのは
嘘を吐かれたから

口に出しかけて
呑みこんだ言葉を
胸までなで下ろして
平静を装う

裏切りはなかったと
あなたの代わりに
言い訳している
私という見知らぬ他人

(9/08/2001)

僕は傘が好きだ

2001-09-04 18:34:00 | ダイアローグ
僕は傘が好きだ 

夕暮れかまだ夜があさい時間に降りはじめ
暗さが二割三割り増しになっていくときがいい
空気を冷やし街を包むように濡らすくらいがいい
忌々しげに空を見あげる瞳が気弱に瞬くのがいい
身幅以上の傘をもち足もとを気にするせいか
人々がちょっと遠慮がちに歩くのがいい

雨滴がつたうフロントガラスに滲むテールランプの赤がいい
月や星が消えたかわりに街灯やネオンに光り輝くアスファルトがいい
眠気を誘うワイパーの往復音に耳をあずけながら
消えては現れる大きな分度器みたいな水跡から
店の名前と出入りを眺めているのがいい

いつものカフェの壁際の席で脚を組み
傘立てにささった色を数え模様を覚えようとする
少々の雨なら傘をささない僕だけど
君がさしてくる傘を想像しているのはいい
おや、はじめてみる傘だな
「やあ、早かったね。うん、僕もいまきたところ」

(2001/09/04)

カエル

2001-09-03 23:22:00 | ダイアローグ
カエル

ゲイでインポだって云われるままに信じて部屋に泊め
パンツの脇から指入れられるまで気づかなかったってか
少なくともバイでゼツリンだってことはわかったわけだ
タトゥのアーティストで麻布十番にスタジオがあるってか
腕のドクロと人魚はシールのはずだがそれにも気づかなかったか
あいつはホームレスでプッシャー
ようするにクスリの売人さ
けっこうなことじゃねえか
どんなことでも理解が深まるってことはよ
で、ヤツと結婚を前提にしたおつきあいがしたいってか?

不感症の男嫌いってふれこみだったのにアソコはトロロ
痛がるのは演技かと思っていたらなんと初物だったと
覚えたら実はサオの乾くヒマもねえヤリマンだったってか
後はクスリ使ってケツ穴も使えるようにしてウリをやらせると
けっこうなことじゃねえか
ひとつよりふたつ
仕事の幅を広げるってことはよ
で、妹と結婚を前提にしたおつきあいがしたいってか?

たしかにあんちゃんには関係ねえよ
そうビビルなよ おまえは知らなかったんだ
クソニニはねえだろう
だけどケジメはつけなくちゃな
ふたりっきりの血縁じゃねえか
短大まで出してやったのに
命までとろうとはいわねえよ
もうおまえや俺だけの問題じゃねえんだ
もう女房面するのかよ
泣こうがわめこうが外には聞こえねえ
そういう場所なんだよ、ここは

わかったわかった
じゃ、こうしよう
おまえら俺の目の前でやってみせろよ
その小便くさいマットレスで悪いが
俺の前でおっ勃てて濡れたなら
惚れてるって与太を信じてやろうじゃねえか
10分待ってやる

汚ねえケツを向けるんじゃねえ
くわえている顔を見せろよ
へえ、髪をかき上げるなんざ余裕じゃねえか
そうそうカリは丁寧にな、なかなかうまいもんだ
小さい時分は忘れ物ばかりする不器用だったくせによ
おいおい弄りもせずにいきなり突っ込むかね
痛がってるだろ、感じてるのか?
芸がねえなもうすこし回すとかできねえのか
深く突っ込んでしばらく動かさねえ
おまえの形を思い出させるくらいがいいんだ

おうおうズッポリくわえこんで
パイパンだったのに真っ黒けになっちまって
にいちゃん、置いてかないでってよくベソかいてたな
いまじゃ下の口でも泣くようになりやがって
おまえが中学の頃は俺のズリネタだった
いまのおまえを見ても俺はもう何も感じねえ
白い腹晒して脚ピクピクさせたカエルみたいだ
いつのまにか俺がおいてけぼりを食ったようだな

バカみたいにケツ振っているこいつのケツ穴に
このトカレフを突っ込んでぶっぱなしたら
ふたりともおっぺしょられたカエルみたいになるだろうよ
そのうち俺も逃げることもできずに
飛び出した目玉だけをグルグル回しながら
おっぺしょられるのを待つことになるんだろうな
それまでは生きなきゃな
俺たちも

(9/3/2001)




吶喊

2001-09-03 18:26:00 | ダイアローグ
吶喊

100円ショップのガラクタ棚に俺を並べるな
俺のタグやレシートやポイントカードを探すな
お前の自意識のPOSシステムと関係なく
俺が売れ筋でありお前こそが死に筋なのだ

マツモトキヨシで生理用ナプキンを買うお前の後ろに
俺が背後霊のようにぼんやり立っていると思うな
心霊写真のようなプリクラには絶対写らない俺だから
お前とは知り合いですらないのだ

俺は何々系でもない
俺の感情はたかだか数十種類の顔文字ではおさまらない
お前の上目づかいの怠惰な分類を押しつけるな
俺は砂のように流れるが一個の砂粒ではあるのだ

俺は留守番電話とは話さない
お前はなぜそこにいない人間に話しかけられるのだ
お前はなぜそこにいない自分に話しかけるのだ
お前はなぜ目の前にいる俺に話しかけないのだ

俺は待ち伏せを受けても予約はされない
俺の列の前にも後ろにも立つな
お前はわけもわからぬ行列に並べ
俺は俺だけの行列に真っ先に並ぶから

俺の胸の中に降りてこようとするな
俺にはスキャンもシミュレートも無効である
俺は傷つける者であり傷つけられる者ではない
俺にトラウマや自傷や癒しは必要ない

俺はサイドにはいるがサイトにはいない
クリックしても砂時計は現れずリンクには跳ばない
俺はつねにここにいるしそこにはいない
お前はどこにもいないしいたこともない

俺の手指や脚はランチの盛り合わせではない
相づちや吐息をトッピングしたつもりはない
俺の性感帯はPOPなアイコンによって指示されない
俺の血肉はいつも俺自身を裏切って心地よく動く

俺の冗談や皮肉に付箋を貼りマーカーで傍線を引くな
お前の想像力では俺をマーケティングできない
薄っぺらな傾向と対策を並べるそばから
俺の規範は瞬時に電流となって神経を駆けめぐるのだ

俺は不法投棄された産業廃棄物の堆積を忙しく移動する
一体の古ぼけた探査ロボットのようではあるが
湿原をわたる東風になびく一本の蘆である

ブックマークからはずせ!
お気に入りからはずせ!
シュレッダーにかけろ!
ゴミ箱を空にせよ!

俺は永遠に蜘蛛の網にはかからない
マルチメディア以上の存在である

かつて茶色い眼と黒い髪を持つ東洋人が
顎先から流れるままに深くくぼんだ鎖骨に雨滴をため
いっぱいに開いた足指で黒い土をかき寄せ
握り固めた両の拳を震わせ呟いた

(9/3/2001)