コタツ評論

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痴漢!にご用心

2007-02-09 22:05:00 | ノンジャンル
未見だが、周防正行監督・脚本の『それでもボクはやってない』が話題になっているようだ。電車内で痴漢をしたという冤罪をめぐって、逮捕・送検・起訴・裁判の様子がリアルに描かれているという。裁判員制度を目前に時宜を得た公開だろう。たしかに、誰でも一度は、裁判の傍聴に行くことは勧められる。映画やTV、小説などでおなじみの正義と真実を追及する熱いドラマなどはどこにもなく、法律の専門家たちによるはなはだしく予定調和の無味乾燥なゲームが繰り広げられていることがよくわかる。いや、ゲームといえば、少しはおもしろい仕組みや仕掛けでもあるかと誤解されそうだ。被告はベルトコンベヤーに乗せられた機械のようなもので、否応なくあれこれ部品をつけられて、その行き先は決まっているのだ。誰でも、有罪率99.9%を実感するに足る経験となるだろう。

電車内の痴漢冤罪に関していえば、自分からベルトコンベアーに乗らない決意と行動がまず必要だ。「話せばわかる」という考えかたが、この場合一番まずい。女性(男性)から、痴漢と名指された後の行動が大事だ。手をつかまれて駅員を呼ばれたり、周囲の乗客に囲まれたりする。そして駅事務所に連れて行かれて、警察が呼ばれる。そのとき、「俺は痴漢した覚えはない。事情を説明して誤解を解こう」と考えるのは間違いではないが、場違いだ。手をつかまれたり、乗客に取り囲まれたりしたら、それは、「現行犯で緊急逮捕」されたことになるのだ。逮捕されたら、警察官に引き渡され、留置され、期限内に送検され、というベルトコンベアーに乗ることになる。釈明の場合ではない。名刺か、なければ運転免許証など身分を明らかにするものをその場に残して、速やかに立ち去るのがベストだ。興奮している乗客にそんな冷静な対応はとてもできないと思ったら、次善の策としては、とにかくその場を逃げるしかない。駅構内から出たら、駅員もそれ以上追わないはずだ。

しかし実際、そんな立場になったら、俺もアワアワいっているうちに、気がつけば留置場の中にいたということになるかもしれない。その場合でも、とにかく何も話さないということで有罪のベルトコンベアーに乗ることに抵抗することはできる。留置された以上、1日や2日で出られることはまずない。覚悟を決めて、最悪の結果を免れる努力をするしかない。あるいは、協力してくれたら、すぐに帰れると警察官からいわれるかもしれない。信じてはいけない。彼はものがわかった人間でもなければ、その逆のわからず屋でもない。職務に忠実に逮捕から先の有罪への手続きを進めようとしているだけだ。とにかく、家族や弁護士に連絡を取るよう繰り返すのだ。大事なことは、絶対に取り調べ調書を作らせないことだ。完全黙秘は難しいだろうが、取り調べの警察官が何か書き出したら、一切喋らないほうがいい。国家権力を相手にしたら、「話せばわかる」は無効だ。相手は人間ではないのだから、話してもわからない。そこが恐ろしいところだ。




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サイドウエイ

2007-02-02 21:24:44 | レンタルDVD映画
思わぬ拾いもの。
http://www.foxjapan.com/movies/sideways/

結婚を1週間後に控えたナンパ男と冴えない小説家志望の中年男二人が、ワインの産地を巡って飲み歩くロードムービー。道具立てや筋立てはたいしたことないが、たいしたことのない男の役ばかり演ってきた、禿でぎょろ目、短い手足に下腹が突き出たポール・ジアマッティ(マイルス)が、たいした男振りに変貌していくのだ。ワインについて確信を込めて語る瞳の明晰、酔っぱらったあげくの捨て身、自己嫌悪から悪酔いする苦い表情。ダメ男が酒と女と友の間をぐるぐる回るだけの物語なのに、無様なマイルスが実に格好いいのである。ちょっとした仕草、瞳のきらめき、後ろ姿の一瞬が、大スターの名場面の決めショットのように、輝いている。温水洋一や笹野高史が、高倉健や勝新、ジョン・ウェインやC・イーストウッドに見える瞬間があるといえばいいか。そして、逡巡したあげくなけなしの勇気をかき集めてマイルスは幸せをつかむ。「フーテンの寅」とほぼ同じ物語と気づいた。なるほど、あれは「男の映画」であったと納得。
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