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今年のアカデミー賞の作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞の4部門獲得。
「英国史上もっとも内気な王」と言われるジョージ6世は
いかに吃音を乗り越えることができたのか?
本作の中で言語聴覚士のライオネルは、生まれつきの吃音はないと言っています。
それでは何故、ジョージ6世は吃音になったのか?
Wikipediaの記述を鵜呑みにするつもりはありませんが
それによると、幼少期の彼は言葉が遅く、左利き・X脚を厳しく矯正され、
”幼いアルバートはこれらの虐待に起因する過度のストレスから、
後に言語障害の専門医から「外見からでも、慢性言語障害の兆候が出ていた」と
言われるほど、重度の吃音症に悩まされることとなってしまった。
このことから、言葉を余り用いずに済む裏方の仕事に徹したいと考え、
海軍軍人になることを希望した。”
映画の中でも、私は王になる準備などできていない、
私は一介の海軍士官に過ぎないんだ、と搾り出すように言うシーンが。
こういう作品はつい、「息子の母」という立場で観てしまいます。
幼少期のトラウマは、一人の人間をここまで追い詰めるのか…
王子アルバートは厳格な父ジョージ5世に厳しく躾けられ、乳母にも虐められた。
更に彼の場合は、兄エドワード8世に対する複雑な感情もあったのでしょう。
自由奔放な兄(恋に狂って王位まで捨てた)への嫉妬と憎悪。
Wikiにも
”(幼少期)兄エドワードはこれらの厳しい指導に怯える弟の姿を、
執拗なまでにからかっていたという。”と。
兄弟の関係というのは、時に本当に難しい。
一人が優秀だともう一人は劣等感を持ったり、
一人がいいことをすると、もう一人はわざと悪いことをしたり。
映画の中でも、大人になったジョージ6世が兄に激しく罵倒され、
実の兄なのに一言も言い返せなかった、と悔し泣きしていたなあ…
余談ですが、兄エドワード8世の「世紀の恋」のお相手のシンプソン夫人は
本作の中では見事に嫌な女として登場しました。
兄本人も、かなり軽い男のように描かれていたし。
実在の王室メンバーをここまで悪し様に描くことが
イギリスでは許されるのか、と妙に感心。
人も羨むやんごとなき立場の人でも
こんなにもつらい生育歴や悩みがあるのですね。
彼があまりにも傷つきやすい人間で、彼の悩みがあまりに切実であるから
観ている側も、つい手に汗を握って応援したくなるのです。
そうして、おそらく真の友人というものを持ったことがなかったジョージ6世は
ドクターの資格すらない、市井のオーストラリア人のライオネルと
激しくぶつかり合いながら、信頼と友情を育んでいく…
クライマックスの戦争前夜のスピーチでは
訥々と、しかし重みのある言葉で国民に語りかけ、
そこにベートーヴェン交響曲第7番第2楽章がおごそかに流れるのです。
観終わった後、ほっこり胸が温かくなる映画です。
☆4
英国王のスピーチ http://kingsspeech.gaga.ne.jp/