もうずいぶん前に友人が言ったのです。
貴女にちょっと似た顔写真がついた本が、本屋に平積みになってたわよ、と。
それが中村安希著「インパラの朝」、第七回開高健ノンフィクション賞受賞作。
この週末、ようやく読みました。
顔が似ているかどうかは自分には分からない。
共通点って髪型くらいじゃないの?
私はこんなに若くないし、何よりこんな才覚も勇気も根性もない。
なんといっても26歳の彼女は、中国、インド、パキスタン、シリア、
エチオピア、ガーナ、ウガンダなど、ユーラシア・アフリカ大陸の国々47カ国を
リュックを背負って2年間、旅をしたのですから。
「その地域に生きる人たちの小さな声に耳を傾けること」を主題に。
淡々とした旅行記です。
若い女性にありがちな媚びや甘えというものが微塵も見受けられない。
本の帯に「独特の傲慢な切れ味、嫌いじゃない。」(崔洋一)
「いわば啖呵を切りながら旅をしてきたのだ。その啖呵が小気味いい」(重松清)
とありますが、まさにその通り。
入国するがために2度の結婚と2度の離婚を経験したり、強盗に襲われたり、
止まらない下痢に苦しんだり、突然の生理で下半身を真っ赤に染めながら
貧困、政情不安、軍事独裁、テロの危険という治安状況極悪の国々を一人で歩き回ったのですから。
私の下手な説明より、本の中のひとつのエピソードを御紹介します。
トーゴから渓谷地帯の村を抜けて、ベナンに向かうところ。
”毎日が熱い戦いだった。
でまかせと騙しの海だった。ぼったくりと喧嘩の嵐だった。
(中略)ミニバスもバイクもタクシーも、探しあてた車の多くが、差別料金を請求してきた。
妥当な相場の2倍から5倍を超える場合もあった。
運転手たちは結託し、私を騙して車へ閉じ込め、時には辺鄙な村のどこかへ私をわざと置き去ることで、どうにか私に音を上げさせて、料金をぼったくろうとした。
(中略)すると今度はバイクの男が役人と裏で結託し、運賃を3倍に吊り上げてきた。
既にサバンナの中にいるので他に交渉できる車も、助けを求める人もいない。
(中略)私はわずかに笑みを浮かべて、穏やかに、そしてはっきり言った。
「トーゴ人はウソつきだ。あなたたちはペテン師だ。
トーゴの汚れた精神が、私はとても嫌いだし、話したいとも思わない。」(中略)
私はリュックのベルトを締めて、森の中へと踏み出した。
背後で二人の声がした。
「君に歩けるわけがない。28キロもあるんだぜ!」”
ろくに水も食料もないまま、彼女は国境の森の中へ歩き出したのですが、
やがて地元の女性に会い、水や食料を与えられ、彼らの家にも招かれるのです。
”戦うことをやめたとき、すべての事物が流れ始めた。”と。
若い頃、澤木耕太郎の「深夜特急」を読んで感動したものです。
この本は、あまりにも彼女の目線が冷めているせいか
夥しいエピソードの一つ一つが活きていないという不満もあるのですが
それでも、日本にもこういうタフな女性が現れたのだと驚きました。
「インパラの朝」 http://tinyurl.com/679orq3