
監督スティーブン・ダルドリー
原作ジョナサン・サフラン・フォア。
9.11の惨劇で愛する父(トム・ハンクス)を失った11歳の少年オスカー(トーマス・ホーン)
の視点で物語は進行する。
最初から最後まで観る側に緊張を強いられるのは
感覚が過敏な彼にはかく聴こえるのかという音と映像に画面が満ちているからか。
オスカーは神経質な少年でアスペルガー症候群の疑いもあり、
世の中と折り合いをつけて生きることが難しいのです。
騒音や泣き声や叫び声、飛行機や地下鉄にも耐えられない。
自傷行為も日常化しており、身体中傷だらけ。
そんな彼の唯一の友人であり、最高の理解者が父親だった。
その父親を亡くした彼の悲しみは計り知れない。

父親が残した鍵の意味を見つけるために
オスカーはNY中を錯綜するのですが…
一本の鍵に合う鍵穴をNYで見つけ出す。
そんな荒唐無稽な課題をまるで修行のように自分に課し、
不安を抑えるためのタンバリンを持ちながら、必死に捜し回るオスカー。
しかしその病気の故か、性格はかなり自己中心的でエキセントリック。
中々感情移入できないのですが、口のきけない奇妙な相棒を見つけてからは
俄然、話が面白くなってきます。
しかし老いた相棒もまた、大きな喪失と悲しみを抱えた人であったのでした。
そしてオスカーが鍵穴を探すうちに出逢った数々の人も
何処かしら悲しみや痛みを抱えていた…
そうした人々に接することによってオスカーは成長し、
再生の力を身につけていきます。

終幕に、オスカーが抱えていた大きな秘密が彼の口から語られる。
その十字架は、只でさえ不安や恐怖に押しつぶされがちな彼には
どんなに重いものであったことか。
「ぼくを許してくれる?」という言葉は
涙なくしては聞けません。
そんな彼を黙って見守る母親(サンドラ・ブロック)の存在がまた、大きい。
父を失った悲しみのあまり、母親ともうまくやっていけなくなったオスカーを
彼女は大きく包み込むのです。

映画の長いタイトル(英語では「Extremely Loud and Incredibly Close」)は
オスカーの世の中に対する叫びそのもののように
私には感じられました。
「ものすごくうるさくてあり得ないほど近い」世の中の色々なものから
できたら逃げ出したい、ベッドの下に一日もぐって耳を塞いでいたい。
でもそれは、パパが自分に望んだことではない。
オスカーの捜していた鍵穴は、彼の求めるものではなかったけれど
父親からの「答え」を、彼は最後に自力で見つけ出すのです。
ラストシーンで、光に向かって高々とブランコをこぎあげるオスカーの姿は
希望の象徴のようでもあります。
「ものすごくうるさくてあり得ないほど近い」http://html5.warnerbros.com/jp/elic/