Zooey's Diary

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胸が痛くなる「何者」

2013年02月06日 | 


第148回直木賞受賞作。
著者の朝井リョウは、我家の次男と同い年なのです。
その彼が、自身の就活体験を基に書いたという本作、楽しみにしていました。
”影を宿しながら光を探る就活大学生の切実な歩み。
あなたの心をあぶり出す書下ろし長編小説。”(amazonより)

大学生の男女五人が、就活の情報交換をするという名目で度々集まる。
語り手である主人公拓人は学生劇団で脚本を書いており、何処か覚めた性格で
他の連中を斜めに見下ろしている。
学生バンドでヴォーカルをしている光太郎、留学経験があり英語ペラペラのリカ、
コラムニストで蹴活に否定的な隆良、精神不安定な母親に頼られている瑞月。
3年の12月に皆で集まってES(エントリーシート)を書き出す頃は皆、同一線上に並び、
「瑞月たちと集まって就活会議。仲間がいるって心強い!」(リカのツィッター)
という感じだったのが、ESで落とされる者、二次三次試験に進む者と
次第に差が広がっていく。
そして冬が終わり、春が来て…

ツィッター、FaceBookという小道具を通して現代の学生たちの会社向けの顔、
友人向けの顔、そして自分用の顔を切り分けて見せてくれる。
いつまでも理想を追いかけている友人をバカにしたり、
内定を貰った友人の会社のブラックの噂を検索したり、
公開していない別アカウントで友人のことをぼろくそに書き込んだり。

”いくらこちらから願い下げだったとしても、最終的に選ばれなかったということは、
そこまで選ばれていたのに決定的に足りない何かがあったというふうに感じてしまう。
ESや筆記試験で落ちるのと、面接で落ちるのとはダメージの種類が違う。
決定的な理由がある筈なのに、それが何なのか分からないのだ。
これまでの人生で何度も経験してきた試験のように、
数学ができなかったから、とか、作文で時間が足りなくなったから、とか、
そんな分析すらさせて貰えない。
就職活動において怖いのは、そこだと思う。
確固たるものさしがない。
ミスが見えないから、その理由がわからない。
自分が今、集団の中でどのくらいの位置にいるかが分からない。”

そして落ちる度に、全人格を否定されたような気分になって行く。
シニカルな主人公拓人に次第に共感を覚えながら読んでいくと
最後に痛烈なしっぺ返しが待ち受けている。
タイトル「何者」の意味がその時初めて、ずっしりと意味を持つのです。

昨年12月1日、就活が解禁になった日のTVニュースで
大学生のES(エントリーシート)を出す会社の数が、一人67社だと言っていました。
我家の息子たちは、幸いそれほど苦労することなく就職が決まったので
実感として分からなかったのですが、67社って凄い数です。
長く続く不況の中で、今の学生は本当に大変だと思わざるを得ません。
その学生たちの呻きや悩み、嫉妬や自己否定の苦しみは
人間の普遍的な痛みとして、我々の胸をも打つのです。
早大在学中に「桐島、部活やめるってよ」で話題を呼んだ著者朝井リョウは
著作を続けながら、某大手映画配給会社に就職したといいます。
今後の活躍が楽しみです。

「何者」 http://tinyurl.com/alqr5ag
コメント (8)
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