第25回東京国際映画祭でサクラグランプリと最優秀監督賞受賞。
息子取り違え事件のイスラエル版というので、気になっていました。
「そして父になる」の背景が平和な日本で、息子たちが6歳だったのに対して
こちらの背景は紛争絶えないイスラエル、息子たちはもう18歳。
しかも片方の父はイスラエル軍の大佐であり、方やパレスチナの修理工なのです。
フランス系ユダヤ人のヨセフが18歳になり、兵役のための健康診断を受けて
血液型が判明するところから話は始まります。
ヨセフの両親の子どもとしてはあり得ない血液型であり、調べた結果、
生まれた病院での取り違えが発覚するのです。
父親は大佐、母親は医師という恵まれたユダヤ人家庭に育ったヨセフは
ミュージシャン志望。
パレスチナ自治区に暮らす修理工の父親と専業主婦の家庭に育ったヤシンは
パリで医科大学に通っている。
救いは、どちらの息子も、とても愛されてのびのびと育ったということです。
しかし、人種、宗教、領土問題はあまりにも大きく、
父親たちは最初から激しく対立してしまう。
お互いの驚きと悲しみを分かち合い、共感して寄りあうのは母親たちです。
そして最初は戸惑うばかりだった息子たちも少しずつ歩み寄り、
お互いの環境を行き来するようになり、やがて友情が芽生えてゆく。
イスラエルと、占領されたヨルダン川西岸のパレスチナ自治区、
壁一つ越えたその両国の光景のあまりの違いに驚きます。
近代国家から、前時代に移ったほどの落差があります。
高い壁、有刺鉄線に囲まれたその壁を通り抜けてテルアビブの街に行けるのは
許可されたパレスチナ人だけ。
それまでは許されていなかったヤシンもその家族も
大佐であるヨセフの父親の権限でテルアビブに行けるようになるのですが
そこでヤシンが遊び半分にしたアイスクリーム売りのバイトの一日の賃金は
修理工である父親の、一月の賃金と同じだというのです。
パレスチナ人がユダヤ人を憎悪するのも(そしてその逆も)
無理もないという気もします。
ヨセフが精神的に頼るユダヤ教会の牧師ラビも
実はユダヤ人ではないというだけで、ヨセフを拒絶してしまう。
そういった困難な状況にもかかわらず、二つの家族は
反発し、悩み苦しみながらも少しずつ歩み寄って行くのです。
それは、現実と比べたら甘すぎる結果であるかもしれませんが
ユダヤ系フランス人であるというロレーヌ・レヴィ監督の
愛があれば、乗り越えられない「壁」はないのだという
願いが込められたメッセージであるような気がします。
2012年フランス映画
http://www.moviola.jp/son/