Zooey's Diary

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「存在のない子供たち」

2019年08月02日 | 映画

レバノンから届いた、重い映画です。
ベイルートの貧民窟に暮らす、シリア難民の12歳の少年ゼイン。
12歳といっても、不法移民の親が出生届を出していないので、正確な数字は分からない。
つまり彼の存在は、社会的には認められていないのです。
怪し気な違法ドラッグを作る両親と何人もの弟妹たちと、その日暮らしをしている。
朝から晩まで路上の物売りなどで働かされ、スクールバスで学校に通う子供たちを眺める日々。
両親は子供たちと雑魚寝をしている所で欲望のままに身体を重ね、また次の子を作る。
仲良しの妹サハラの存在が、ゼインの唯一の支えだった。



まだ11歳、初潮を迎えたばかりの小さなサハラを、ニワトリと引き換えに
親は近所の中年男に嫁に出す。
泣いて嫌がるサハラ、ゼインも必死に止めようとするが、大人の力には敵わない。
絶望したゼインは家出をして彷徨った挙句、アフリカ難民の女性ラヒルと知り合って
彼女の赤ん坊を世話することで、なんとか身を寄せる場所を見つけたかに思えるが
ラヒルが突然、家に帰って来なくなる。
ゼインは乳飲み子と取り残され、必死に世話をするが…



ゼインが生まれ育った貧民窟の環境は過酷なものですが
なんといっても酷いのは、両親から一片の愛情も与えられなかったこと。
どんなに貧しくて劣悪な環境であっても、そこに愛情があれば救いがあったのに。
掘っ建て小屋の中で赤ん坊を必死に育てていたラヒルのように。
それがなかったから、ゼインは法廷に両親を訴えたのです。
「両親を訴えたい。僕を産んだ罪で」と。

この映画の出演者の殆どが、実際に不法移民などの素人なのだそうです。
ゼイン役の少年も、役同様に出生証明書も戸籍も持たないシリア難民で
読み書きができず、たった3文字の自分の名前も書けなかったのですって。
ゼインを拾ってくれたアフリカ難民のラヒル役の女性も、実際に難民で、
撮影中に不法移民として逮捕されたのだそうです。
監督が保証人となって保釈されたとかで、彼らの演技にリアリティがある筈です。



脚本・監督はナディーン・ラバキー、弁護士役で出演もしている写真の女性。
原題の「Capharnaüm」は、イエスが奇跡を起こしたが人々が悔い改めなかった街であり、
混沌、修羅場を意味するのだそうです。
第71回カンヌ国際映画祭でコンペティション部門審査員賞、エキュメニカル審査賞受賞。

コメント (4)
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