アガサ・クリスティによる名作「ナイルに死す」を、ケネス・ブラナーの監督・製作・主演で映画化。
ナイル川をめぐる豪華客船内で、サイモン(アーミー・ハマー)との新婚旅行を楽しんでいた大富豪の娘リネット(ガル・ガドット)が何者かに殺害される。
容疑者は、サイモンのかつての婚約者であったジャッキーを始め、結婚祝いに駆け付けた乗客全員だった。

若い頃原作を読み、1978年版の映画も観ているのに、内容をほぼ忘れて新鮮に鑑賞。
冒頭、第一次世界大戦の塹壕が舞台となり、激しい戦争のシーンが現れて唖然とします。
ポアロの若き日々が描かれたのですが、あれはクリスティの原作にはなかったのではないか。
あんなのに時間をかける分、何人もの容疑者の人物紹介と、ポアロが彼らを疑ったそれぞれの理由にもっと時間をかけて欲しかった。
更に、映画ラストのポアロについてのエピソードはもっと不要に感じました。

雄大なナイル川やその河畔、砂漠の中のピラミッドの映像は、溜息が出るほどに綺麗です。
私は2018年にナイル川クルーズをしたので、懐かしく思い出しました。
あの巨大なアブシンベル宮殿が、映画ではナイル河畔の船から降りてすぐの所にあったのでビックリ。
実際にはもっとずっと内陸にあったのですが、ああそうだ、アスワン・ハイ・ダムの建設によってあの神殿は水没の危機に見舞われたところを、莫大な手間と費用をかけて1960年代に内陸に移築されたのでした。
この映画は1930年代の話ですから、時代考証がしっかりされていたというべきか。

(アブシンベル宮殿、21018年)
それはよかったのですが、最近の欧米映画によく見られる、無理やりとしか思えない人種構成には疑問が残ります。
1930年代に欧州からナイル川クルーズに出かけるなんて、かなりの富裕層でなければ無理な筈。
それなのに主要な乗客の中に黒人を二人入れるとは。
ちなみに1978年版の乗客はやはり、白人ばかりでした。
そもそもアガサ・クリスティが富裕層の出身で、彼女の小説はイギリスの古き良き時代(彼らにとっては)のそうした背景での話が中心となるのに。
同じようにLGBT乗客の設定も、かなり無理が…

といった不満はありましたが、エルキュール・ポアロの灰色の脳ミソによる鋭い推理、夕焼けに包まれる雄大なナイル川、贅沢なクルーズ船、そうしたものを楽しめるゴージャスな映画でした。
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