ジョージアの古都トビリシの旧市街に暮らす作家のエレナは79歳。
娘夫婦やひ孫と暮らしてはいるが、彼女の誕生日を誰も覚えていない。
脚が悪くて外出もままならず、孤独な日々を送っていた。
娘の姑ミランダがアルツハイマーとなって一人暮らしが難しくなり、一緒に暮らすことになるが、ソ連時代に政府高官だったミランダを、エレナは快くは思っていない。
エレナの両親はソ連時代に逮捕され、酷い目に遭っていたのだった。
そんなある日、エレナの昔の恋人から電話がかかってくる…
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/13/b8/a0cf3ede9506379359537d276f4b87cc.png)
静かな映画です。
特にこれといった事件が起きる訳でもなく、昔の恋人とまた盛り上がる訳でもない。
リアルな社会派映画と思いきや、時にシュールな映像が入り混じり、叙事詩のような作品でもあります。
しかし、その場所が何処なのかもよく分からないジョージアという国で(ロシアの下、黒海の右に位置していた)、娘夫婦と暮らしながらもエレナが感じる孤独、華やかだった昔のことばかりしつこく話すミランダの鬱陶しさ、アルツハイマー初期の自分が分からなくなっていく不安、そうした感情は日本と何ら変わることはない。
大きく違う点は、彼らを壮絶に苦しめたソ連の存在があるということです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/45/93/62bb8cec402e0e453afcfcbe777d53d4.jpg)
そして、エレナたちが住む伝統的集合住宅の面白さ。
スペインのように中庭をコの字型に囲む大きな建物、しかも木造なのです。
家から簡単に出られないエレナはこの中庭から始終、住民の様子を見ているのです。
住民たちの痴話喧嘩が筒抜けであったり、日向ぼっこしながら井戸端会議している様子は、昔の日本の長屋生活のよう。
生活様式の違いぶりに驚いたり、共通点を見つけてホッとしたりするのは、異国の映画を観る楽しみの一つです。
私にとってもう一つ特記すべきは、エレナが黒いミニチュアダックスを飼っていること。
タロウに似た子が、エレナの家の中を始終チョロチョロしていました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3b/18/0810744197d2a13737a9b6c608cb22d8.jpg)
監督は御年91歳のラナ・ゴゴべリゼ。
政治家であった彼女の父は処刑され、ジョージア初の女流監督であった母はシベリアに流刑されたのだそうです。
タイトルは、壊れた陶器を修復する日本独自の技法”金継ぎ”からつけられたと言います。
「日本人が数世紀も前に壊れた器を金で繋ぎ合わせるように、金の糸で過去を継ぎ合わせるならば、過去は、そのもっとも痛ましいものでさえ、財産になることでしょう」と、監督の言葉。
ロシアの近隣にあって、散々痛めつけられていた国の映画という点では、非常にタイムリーな作品とも言えます。
公式HP