イーストウッドの監督作品なら見逃す訳にはいかないと観て来たのですが…
FBIの顔的人物J・エドガー・フーヴァー。
”1924年5月10日にFBI長官に任命され、72年に亡くなるまで長官職に
留まった。就任当時のカルビン・クーリッジからリチャード・ニクソンまで、
8代の大統領に仕えた、現在に至るまで合衆国で最も長く政府機関の長を務めた人物である。
なお以後のFBI長官任期は10年に制限されている。FBIを大きな影響力を持つ
組織へと創り上げた点で称賛されるが、一方で自らの権威を盾に、有名人に対する
諜報活動や恐喝に加え、政治的迫害を行ったことを始め、その巨大すぎる権力行使は
大きな非難を受けていた。 しかし、たとえば指紋による犯罪捜査のように、
現代において彼の残した業績は賞賛に値すべきものもある。”(Wikipediaより)
どんなに強い男の英雄物語かと思いきや、
画面に現れたのは孤独な老人(レオナルド・ディカプリオ)。
きっちりとスーツを着込み、昔の自分の手柄話を延々と部下に書きとらせている。
結婚もせず、友人も殆どおらず、母亡きあと家にいるのはメイドと犬だけ。
彼の華々しい業績よりも、興味を引かれるのはその負の部分です。
コンプレックスの塊でもある彼は、精神的に母親(ジュディ・デンチ)の絶対的な支配下にある。
自分がゲイであること、腹心の部下クライドを愛していることを多分認めながらも、
母親の「女々しい男になるくらいなら死んだ方がまし」という言葉を打ち破ることができない。
で、この二人はお互いに恋心を抱きながらもプラトニックを貫き(映画では)、
ともに生涯独身を通すのです。
(このクライド、何処かで見た顔だと思ったら
「ソーシャル・ネットワーク」で嫌味なエリートの双子を演じていたアミー・ハマーだった)
彼が生涯心を許したのは、母親とクライド、そして秘書のヘレンだけだったのでしょうね。
もうひとつ、殆どセリフもなかったフーバー家の黒人メイド、アーニー。
人種差別主義者であったエドガーは、多分彼女とは主従関係以外の何ものでもなく、
おそらく言葉を交わすこともなかったのでしょう。
そのせいなのか、エドガーが半裸で倒れてこときれても
ベッドに寝かそうとも毛布をかけてやろうともしない。
半世紀に渡って権力のトップに君臨したFBI長官の、床に転がった最期の姿…
この作品はJ.エドガーという人間を、賛美も批判もせず、
ドキュメンタリー映画のように淡々と描いています。
でもこれでは、共感も感情移入もできない。
早い話、とても好きにはなれない偏屈な老人の孤独な物語であったのでした。
「J・エドガー」 http://wwws.warnerbros.co.jp/hoover/index.html#/home