古いカセット・テープを整理していたら学生時代に録音したライヴ・テープが出てきた。その中に1982年5月1日法政大学学生会館大ホールでのペーター・ブロッツマン/近藤等則/豊住芳三郎のパフォーマンスと同じく5月8日日本教育会館一ツ橋ホールでのICPオーケストラの録音があった。今から30年前の演奏である。ブロッツマンは今年70歳だから、私が最初に観たときは40歳前後、油の乗り切った時期だった。その当時既にヨーロピアン・フリー・インプロヴィゼーションの世界ではデレク・ベイリー、エヴァン・パーカーらと並ぶ伝説的存在だった。その彼が以来30年たっても第一線で活躍しているのは素晴らしいことだ。
昨年11月には同じ新宿ピットインで灰野さん+ジム・オルークとの共演を観たが、今年は「生誕70周年記念ツアー」ということで、ドラムにポール・ニルセン・ラヴ、チェロにフレッド・ロンバーグ・ホルムを率いてのトリオでのツアーである。ピットインは3日連続の「ブロッツフェス2011」、各日異なるゲストを迎えてのステージである。
初日は灰野敬二さん、大友良英氏の二人のギタリストがゲスト。会場は80%男性客で椅子席は満席。私はチケット発売日にピットインに並んで買ったので最前列に座れた。
物販コーナーにdoubt musicの沼田さんがいたので発売前の坂田明さんの新作「平家物語」をこっそり購入。ヤクの売人みたい、と沼田さん。
1stセットはブロッツマンのトリオの演奏。いきなりフル・スロットルで爆発するフリー・ジャズ。初来日のロンバーグ・ホルムはチェロにエフェクターを7個繋げて奇怪な電子音混じりのプレイ。その物の怪に取り憑かれたような激しい演奏にはぶっ飛んだ。ブロッツマンはテナーでトレードマークのマシンガンのような豪快なブロウを吹きまくる。ニルセン・ラヴの緩急に富んだドラミングもいい。3者一体となって繰り広げる武闘派プレイは1970年代の山下洋輔トリオを彷彿させる。観ている方も体力を要求される演奏だった。
2ndセットは大友良英氏を加えてのカルテット。大友氏はフィードバックやプリペアド・ギターなどの技を繰り出すが意外にジャズよりのフレーズも多用してトリオの演奏に上手く溶け込んでいく。まるで長年一緒にやっているカルテットのようだ。ブロッツマンはメタル・クラリネットもプレイ、演奏に多彩な色を付け加える。大友氏のルーツがジャズにあることを再確認した演奏。
3rdセットは灰野さんがゲスト。先ほどの大友さんが"フリー・ジャズ"の進化形を提示したとすれば、灰野さんの演奏姿勢は、その出来上がった"フリー・ジャズ"の脇腹にナイフを突き刺し内蔵をえぐり出し、別のものに変えてしまおうという挑発的ともいえるスタイルで、観ていて実にスリリングである。同じギタリストでも全く違ったアプローチをするものだな、と実感した。灰野さんは途中でヴォイス・パフォーマンスに移りさらに撹乱の度合いを高める。ブロッツマンはアルトを使用。椅子の上で飛び落ちそうに身体を激しく動かす灰野さんを観ているとやはりこの人のルーツはロックでしかあり得ないなと納得。
アンコールはブロッツマン自ら灰野さんを呼びに行き、灰野+ブロッツマンのデュオを聴かせる。もう長い付き合いの二人にしか出来ない魂の交感はこの日最も印象的だった。
それにしても驚異的なのは70歳ということを全く感じさせないブロッツマンの肺活量と豪快な演奏である。終演後廊下でタバコを吸っている彼に握手をしてもらった。力強い握手だった。この人はきっと10年後も同じプレイを聴かせてくれるに違いないと確信した。
馴れ合わぬ
演奏貫く
灰野さん
日曜日には坂田明さん、佐藤允彦さんがゲストの演奏を観に行く。しばらくピットイン詣でが続く。