ようつべやサウンドクラウドで気になる音源を見つけたら、まずは可能な限りライヴ現場へ足を運ぶことにしている。生で観て気に入った場合、最も確実な音源入手法が物販である。荷物になるし現金オンリーだし割引もないので、あとで中古で探すか密林でポチればいい、と考えるのは大間違い。数量限定のレア音源もあるし、海外アーティストの場合は流通に乗らない現地オンリーのブツも多い。いつ買うか?今でしょ!という半死流行語は、音源購入に関しては、永遠に通用する金言なのである。実際昨年末にNHKホール物販で入手した大友良英のアナログ盤は、その後国内で見かけることは滅多に無い。
●Domestic Violence Recordings
昨年新宿URGAで購入したUP-TIGHTのLPとそっくりのアナログ盤を先日のアースダムの物販で見つけた。ASTROこと長谷川洋の作品で最近海外から届いたという。どちらもママ・ビェア(Mama Baer)というアーティストとのスプリット盤。別の日に中古盤で同シリーズのスメグマのLPも発見した。そちらはコミッサー・フジュラー・ウント・フラウ(Kommissar Hjuler Und Frau)というアーティストとのスプリット。1967年生まれのコミッサー・フジュラーはドイツとデンマークの国境の街フレンスブルグで活動するサウンドアーティストで、1981年生まれのママ・ビェアとは夫婦である。ふたりは1999年に音楽活動、2006年に映像アートを始めた。ドイツのネオダダ、アウトサイダーアート集団NO!Artのメンバーでもある。UP-TIGHT、長谷川洋、スメグマのアナログ盤は世界の異能アーティストとのスプリットシリーズ全12作の一部で、自主レーベルDomestic Violence Recordingsから各177枚限定リリース。他にはニューブロッケイダーズ、Dessending Table、LSD March等が参加。ママ・ビェアの手になるジャンキーポルノグラフィー・アートは、中原昌也の絵画と通じる。演奏はローファイ物音ノイズだが、ハーシュノイズではなく、ダダ的コンセプチュアルアートという感じ。
●WILD FLESH TAPES
白石民夫とのデュオ大凶風呂敷で来日したカミッサ・ビュアハウス。幼少時にピアノを習い、物心ついた頃からアメリカーナをはじめとするアメリカン・インディー・ロックに興味を持つ。10代半ばで音楽活動開始。大学進学でニューヨークへ移り、マンハッタンの精鋭アートシーンで活動。ドイツ人の友人からピナコテカレコードなど日本の地下音楽を紹介され興味を持つ。2012年ニューヨークで開催された灰野敬二・白石民夫デュオを観て衝撃を受け、白石の知己を受け共に活動。たまたま入手した大凶という文字がしるされた風呂敷からユニット名を引用した。ソロユニットELIZA and PARRY、パフォーマンスグループFull Disclosureなど幅広く活動する。カミッサのパーソナルカセットレーベルがWILD FLESH TAPES。来日の前日に眠い目を擦りながら編集したカセットを持参。大凶風呂敷『今:ZERO』、ELIZA and PARRY『mayday』、HARIBO『VINES』に、Plant Migration RecordsリリースのELIZA and PARRY『C.B.』の4本を購入。白石民夫参加音源も含むプライベートでヴィヴィッドな活動記録である。こんな音源を入手出来ることこそまさに物販の醍醐味と言える。
●K2 "Audio Pathology Archives"
ライヴを滅多にやらない、もしくは観ることが出来ないアーティストの場合は、本人のサイトやSNSでの直販(通信販売・ダウンロード)が便利。静岡在住のノイジシャンK2こと草深公秀が、月刊K2 100部限定CDRシリーズAudio Pathology Archivesをスタートした。医者らしく「音響病理学記録集」と銘打って第一集:脳腫瘍と第二巻:食道病変がリリース済、第3巻:甲状腺腫瘍が間もなく届く予定。ノイズがスタイルとして確立した80年代初頭以来、病理学はノイズに欠かせない要素だったが、正真正銘の病理医が冠する病名には強力な説得力がある。病気の種類に関係なく放出されるレベルオーヴァーハーシュノイズが深刻なブレインダメージを齎す。
街のCDショップが激減した今、密林やヤホオ、塔、エイチ等のネット通販が音源購入の主要ルートとなったが、当然流通に乗らないアーティスト・作品は数多く存在する。地下音楽・電子雑音・極端音楽に関してはモダーンミュージックやMEDITATIONS、Los Apsonなどの専門サイトが有用だが、如何せん数行のコメントだけを頼りに未知のアーティスト作品に手を出すのには勇気がいる。そういう意味でもライヴ会場物販やアーティスト直販を最大限活用したい。アーティストにとっても直接の収入になるので願ったり適ったりである。
欲しければ
ダイレクト
間違いない
5年程前夢中で集めたShit Noise RecordsやHair Stylistics CDRシリーズを思い出す。