レコード・コレクションを見ていくことは、自分の過去を追体験する旅路でもある。その当時に自分が何を考え、何をしようとしたのかは、今となっては忘れているが、何を聴いて何を思ったのかは大体覚えている。Bから始まる追体験は、サイケに収まり切れない広大な心の拡張を促す変革の旅でもあった。
●Bad Seeds / J-Beck Story 1
1984 / France: Eva – 12034 / 1986.9.8 吉祥寺ロンロン新星堂バーゲン ¥980
EvaはPsychoと並び80年代初頭に知られざるサイケのレア盤を多数再発し音楽シーンに衝撃を与えたフランスのレーベル。67年以降のアシッドロック中心だったPsychoに対してEvaは60年代真ん中頃のガレージパンク/ブリティッシュ・ビート系の再発が多かった。このアルバムはテキサスのローカル・レーベルJ-Beck/Cee-Beeの歴史を紐解くシリーズの第1弾。Mike Taylor (vo,g), Rod Prince (g), Henry Edgeington (b), Bobby Donaho (ds)からなるBad Seedsの65,66年のシングル曲をA面に、Mike Taylorがソロで67年に出した曲をB面に収録したコンピ。Bad Seedsの英国ビートロックに影響されたガレージR&Bがカッコいい。ジャケット裏のロングインタビューを解読しようと思ってから25年経つがまだ読めていない。
1966-The Bad Seeds Complete TV Appearance-A Taste Of The Same/I'm A King Bee
●Bamboo / Bamboo
1968 / US: Elektra – EKS-74048 / 1985.12.21 吉祥寺TONY ¥300
ジャケット写真の二人のベルボトムとシャツの襟でキマりでしょう。フォークリバイバル歌手として活動していた右のDave Ray(vo,g)が、68年に左のWill Donicht(vo,b,key)と組んでBambooを結成、フォーク&カントリー系セッション・ミュージシャンと共に制作したアルバム。ラリッたヒッピーによるエレクトリック・アシッド・カントリーとでも呼ぶしかない、とりとめもない音楽性は聴き手を攪乱する。変拍子ハードコア・カントリーB-6 Keep What Make You Feel Nice(自分が気持ちよく感じられことをやり続けろ) の曲名がすべてを物語っている。
Bamboo - The Three Best Songs from BAMBOO
⇒【私のB級サイケ収集癖】第3夜:ボア・コンストリクター&ア・ナチュラル・ヴァイン/バンブー
●Banchee / Banchee
1969 / US: Atlantic – SD 8240 / 1994.11.23 吉祥寺Warsaw ¥1,800
60年代後半東海岸出身の4人組。 Jose Miguel DeJesus (g,vo), Michael Marino (B,vo), Peter Alongi (g,vo), Victor DiGilio (ds,vo)。CSN風のコーラスやジャズっぽいアドリブ、哀愁のメロディを交えた構成のはっきりしたプログレッシヴ・ハードロックだが、ヘヴィさは皆無。真のアートロックと呼べるだろう。A-5 Beautiful DayやB-4 Tom's Islandの凝った構成とポップセンスがかなり気に入っている。Top5には入らないが、Top10には入るかもしれない。ムード音楽かイージーリスニングジャズの企画盤っぽいジャケットも音の枯れ具合に相応しい。71年にPolydorから2ndアルバムを出している。
Banchee - Hands Of A Clock
●Bangor Flying Circus / Bangor Flying Circus
1969 / US: Dunhill – DS 50069 / 1986.4.18 下北沢レコファン ¥750
1967年にシカゴで結成されたプログレ・ハードロック・トリオ。メンバーはAlan DeCarlo (g,vo), David "Hawk" Wolinski (key,vo,b), Mike Tegza (ds)。Tegzaは元H.P.Lovecraft。ベースはキーボートのペダルで、完全にトリオのみの演奏と考えると凄い。複雑な展開をテクニカルに弾きこなプレイには舌を巻くしかない。しかしながら印象的なメロディがないうえに、聴き手を置き去りするテクニック至上主義が残念。売りのビートルズのカヴァーB-5 Norwegian Woodも、テクニックに走りすぎて音楽を見失っている。サイケ以降にハードロックに走ったバンドに有りがち。
Concerto Four Clouds
●Barbara Keith / Barbara Keith
1970 / US: Verve Forecast – FTS-3084 / 1994.12.27 下北沢 Wind ¥3,980
マサチューセッツ州出身のフォーク・シンガー。68年バンドKangarooのメンバーとしてデビュー。69年解散後ソロとしてリリースした1stアルバム。バックを務めるのは、ボストンのサイケバンドBo GrumpsのJim Colegrove (b), Jeff Gutcheon (key), N.D.Smart II (ds)やブルーグラスの名ギタリストBill Keithなど。カントリー・フォーク調のグッドタイム・ミュージックをバンドっぽい演奏で聴かせる。バーバラ・キースの細かいビブラート・ヴォイスにサイケを感じるが、もっとレイドバックしたハッピー感が強い。美しいオルガンの聴けるA-3 To See The Morning Goneや美メロB-2 Lullabyがいい。
Barbara Keith - The Ones Who Really Care (Rare Folk-Psych)
●Barbara Keith / Barbara Keith
1973 / US: Reprise Records – MS 2087 / 1993.8.23 下北沢Flash Disc Ranch ¥800
リプリーズに移籍した2ndアルバム。ボブ・ディランのカヴァーA-1 All Along The Watchtowerの重厚なサウンドで、前作とは気合が違う作りこんだ作品であることが分かる。Lowell George (g), Danny Kootch (g), Spooner Oldham (key), Nick DeCaro (arrange)など豪華ミュージシャンが参加。とても完成度は高いが、サイケ感はほとんど皆無。筆者にとっては1stの垢ぬけなさが愛おしい。
Barbara Keith - All Along The Watchtower (original)
⇒【私のB級サイケ蒐集癖】第13夜:バーバラ・キース、サイケからカントリーフォーク経由ハードロックへの転身
●The Beach Boys / Concert ビーチ・ボーイズ / ビーチ・ボーイズ・コンサート
1964 / JP: 東芝EMI Capitol Records – ECS-80200 / 1976.6.14 金沢山畜 ¥2,500
石川県金沢市に住んでいた中学1年のとき洋楽に目覚めた筆者が買った2枚目のアルバム(1枚目は『ジョン・デンバー・ライヴ』)。ビーチ・ボーイズの美しいコーラス・ハーモニーのロックンロールが大好きだった。1961年にロアンゼルスで結成された彼らの通算7作目、初のライヴ・アルバム。うるさ過ぎる歓声は後からのオーバーダブもしれないが、バンド演奏の瑞々しさは間違いなく絶頂期のロックンロール魂の発露。さわやかな疾走R感に生き返る気持ちがした。
THE BEACH BOYS THE LOST CONCERT 1964
●The Beach Boys / Beach Boys '69 (The Beach Boys Live In London) ビーチ・ボーイズ / ビーチ・ボーイズ’69(ライヴ・イン・ロンドン)
1970 / JP: 東芝EMI Capitol Records – ECS-70103 / 1977.6.12 吉祥寺 ¥2,300
なぜかライヴ盤ばかり買ってしまう病というのはあるのだろうか?2枚目のビーチ・ボーイズは69年ロンドン・ロイヤル・アルバート・ホールでのライヴ実況盤。曲は64年とは全く被らず、『ペットサウンズ』以降の中期ビーチ・ボーイズの思索的なナンバーが中心。ホーンやリズム隊を増強して繰り広げられるコンサートは、やはりロックンロールの疾走感が感じられる。大好きなB-3 Good Vibrations、B-4 God Only Knowsのライヴ演奏に感激。
The Beach Boys- Live in Paris 1969/06/16
●The Beach Boys / Surf's Up
1971 / US: Reprise Records – RS 6453 / 1977.1.5 金沢 ¥2,300
持っているスタジオ盤が中~後期だけというのはバランスよくないように見えるだろうが、筆者にとってはごく自然。ビーチ・ボーイズの暗黒面を象徴する”枯れた海辺”のアルバムは、彼らなりのサイケ/アシッドミュージックの神髄である。中学生の頃はA-5 Student Demonstration Timeの過激なサウンドがお気に入りだったが、今は虚無感に満ちたB面の流れに共感できる。成長と共に聴き方も変化するのは当たり前。
The Beach Boys Surf's Up
●The Beach Boys / Holland ビーチ・ボーイズ / オランダ
1973 / JP: ワーナーパイオニア Brother Records – P-8314R / 1976.8.4 金沢Vanvan ¥2,300
こちらも”枯れた”ビーチ・ボーイズの象徴的アルバム。幻想的なコーラスは彼らにしか出せない味がある。大学生になって、オランダがドラッグ自由の国だと知ってはじめてこのアルバムに漂う浮遊感の理由が理解できた。
California Saga (Full) - The Beach Boys
⇒【私のB級サイケ蒐集癖】第25夜:インドア派シティ・サーファー暗黒時代〜ザ・ビーチ・ボーイズ『サーフズ・アップ』『オランダ』
浜辺には
人の声の
層がある