蒐集家にありがちなのは、B級やレア盤ばかり熱心に探して、基本的な名盤やスタンダードなレコードを聴こうとしないタイプである。筆者も昔からメジャーなレコードに疎いところがあり、レコード店のBGMでビートルズを聴いて、すごいサイケなバンドだ!と興奮して笑われたことも何度かある。アメリカのサイケにハマってからは、ジェファーソン・エアプレインを始め、グレイトフル・デッドやバーズ、ドアーズ、ジャニス・ジョプリンなど定番アイテムをできるだけ聴くようにして、そのすごさを分かろうとした。ただしそういったバンドは一部を除き、早い時期にCD再発されたので、80年代後半以降主にCDで購入した。だから基本レコードに特化した今回の特集にはCDは登場しないことをご理解いただきたい。
●Big Brother & The Holding Company / Cheaper Thrills
1984 / UK: Edsel Records – ED 135 / 1985.9.1 吉祥寺ロンロン新星堂バーゲン ¥980
1965年にサンフランシスコで結成されたサイケデリック・ブルース・バンド、ビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニーのデビュー前、1966年7月28日サンフランシスコ・カリフォルニア・ホールでの未発表ライヴ・アルバム。Janis Joplin (vo), James Gurley (g), Sam Andrew (g), Peter Albin (b), Dave Getz (ds)。ジャニスがビッグ・ブラザーに加入したのは66年6月4日と言われているから、まだ2か月も経っていない頃のとライヴである。ベースのピーター・アルヴィンがリード・ヴォーカルを取る曲も多く、ジャニスのキイキイ声が邪魔に聴こえることもある。それだけに初期シスコ・サイケの生々しい息吹を感じられるアルバムである。B-2 Blow Your Mindのツービートドラムのハードコア・ブルースが最高にパンク。
Gutra's Garden (Live at California Hall, 1966)
●Big Brother & The Holding Company / Big Brother & The Holding Company
1967 / JP reissue 1977: CBS/Sony – 15AP 601 / 1986.2.24 下北沢Second Hands ¥600
マイナーレーベルMainstreamからリリースされたデビュー作。ライヴ命のサンフランシスコのサイケ・バンドがレコードで魅力を発揮するのは難しい。その典型がこのアルバムだろう。全曲2分台の短いナンバーばかりで、売りのジャニスのシャウトやサイケなギターがほとんど収録されていない。もしジャニスが注目されることなくこのアルバムだけ残して消えていたら、幻のB級サイケの基本アイテムとして好き者だけに知られる存在だっただろう。しかしながら、ジャニスの全身全霊を籠めたヴォーカルは確かに震えるほど凄いけれど、暑苦しくて鬱陶しいと感じてしまう筆者にとっては、その「もしも」を妄想しながら愛聴する隠れ名盤なのである。
Big Brother & The Holding Company, Janis Joplin - Bye, Bye Baby (Audio) ft. Janis Joplin
●Big Brother & The Holding Company / Cheap Thrills
1968 / JP reissue 1977: CBS/Sony – 15AP 602 / 1986.2.24 下北沢Second Hands ¥600
これが名盤の誉れ高い2ndにして、ジャニス入りのビッグ・ブラザー最後のアルバム。筆者が初めて聴いたジャニスの曲は、中学生の時ラジオでエアチェックしたA-4 Piece of My Heart(心のカケラ)だったが、何より印象に残ったのはイントロのファズギターだった。アルバム全体を聴いて一番興奮するのもサム・アンドリュースの破天荒なファズギターである。歌よりもギターに惹かれる不心得者も多いに違いない。正直言って、ビッグ・ブラザーと別れた後のジャニスはソウルっぽくてピンと来ない。ちなみにライナーは間章による長文のジャニス論。
Big Brother and the Holding Company - Full Concert - 08/16/68 - San Francisco (OFFICIAL)
●Bit 'A Sweet / Hypnotic I
1968 / US: ABC Records – ABCS-640 / 1985.9.26 新宿Edison ¥800
NYロング・アイランド出身のガレージロック・バンドThe Satisfactionsが前身。メンバーはDennis DeRespino (vo, key, g), Russell Leslie (ds, vo), Mitch London (b, vo), Jack Mieczkowski (vo, g, sitar)。67年にシングル「Out of Sight, Out of Mind」でデビュー、映画『Blonde on a Bum Trip』に出演。本作は68年の唯一のアルバム。プロデューサーのSteve Duboffが曲の大半を作曲しており、アルバムタイトル『Hypnotic(催眠術)』に倣って奇妙な電子音やエフェクトやエレクトリック・シタールを取り入れているが、バンドのソフトロック/ガレージロック・サウンドとは乖離している。以前聴いたときの居心地の悪さは、今聴くとスプーキー・トゥース&ピエール・アンリ『セレモニー』に似た”勇気ある失敗作”と呼びたくなる。
Bit' A Sweet - Speak Softly
●Blue Cheer / Vincebus Eruptum
1968 / US reissue 1974: Mercury – PL 9001 / 1984.10.4 吉祥寺ジョージ ¥1,400
1967年サンフランシスコで結成されたハードロックバンド。メンバーはDickie Peterson (vo, b), Leigh Stephens (g), Paul Whaley (ds)。ヘヴィロックやパンクのルーツとして現在でも高い人気を誇るロック・トリオの衝撃のデビュー・アルバム。エディ・コクラン/ザ・フーで知られる「Summertime Blues」のファズ・サイケ・カヴァーがあまりに有名だが、アルバム全編トリオ編成で(一部ギターのダビングあり)押し通す歪んだロックは圧倒的。特にB-3 Second Time Aroundのコードやタイムを無視したフリーキーなギターソロは、フリージャズもパンクもノイズも破壊するロック衝動の最高のトリップである。94年にボストンのレコード店でオリジナル・ジャケットを購入したら、中身が70年代の再発盤だった。アリス・クーパーでも同じように騙された。ハードサイケ中古盤には注意しなきゃな。
Blue Cheer - Summertime Blues
●Blue Cheer / Outsideinside
1968 / US: Philips – PHS 600-278 / 1991.12.24 下北沢Flash Disc Ranch ¥3,480
2ndアルバム。ピアノやキーボードを加え、1stのエネルギーをそのままに、より思索的な面を追求したアルバム。タイトル通り野外とスタジオ内とでレコーディングされたらしい。ローリング・ストーンズ「Satisfaction」のカヴァーはあまり知られていないが、「サマータイム・ブルース」に匹敵するヘヴィサイケ・ヴァージョン。このアルバムは80年代に見開きジャケットが半分切れた不良盤をそれとは知らずに買ってしまった苦い思い出がある。筆者はブルー・チアー運が悪いらしい。
Blue Cheer - Feathers From Your Tree (1968)
●The Blue Things / The Bluethings Story Volume Three (1966) Psychedelia!!
1987 / US: Cicadelic Records – 973 / 1991.4.28 渋谷Disk Union 2 ¥1,680
1964~68年に活動していたカンサス州ヘイズ出身のガレージロック・バンド。66年にアルバム『The Blue Things』、他に7枚のシングルをリリースした彼らの歴史をまとめた再発シリーズのVol.3。ガレージロック、R&Bからサイケデリックに移行しつつあった1966~67年にレコーディングされた曲を集めたコンピ。フォークロックやサウンドエフェクトを取り入れた実験的なデモテープが面白い。デモならではのチープな録音が、サイケっぽさを強調している。なぜVol.1と2を買わなかったのか、悔やみはしないが、もったいない気がする。
The Blue Things - You Can Live In Our Tree
●Blues Magoos / Psychedelic Lollipop
1967 / US reissue 80's : Mercury – SR 61096 / 1984.7.19 吉祥寺Disk Inn 2 ¥1800?
NYブロンクスで1964年にThe Trenchcoatsとして結成される。66年に改名してMercuryレコードと契約。1stアルバム『Psychedelic Lollipop』」をリリース。”サイケデリック”という言葉を初めてタイトルに冠したレコードと言われている。A-1. (We Ain't Got) Nothin' Yet(恋する青春)が全米Top5ヒットとなり、世界的に人気となる。ガレージ・パンクとサイケデリックが最もおいしく融合されたサウンドは、髪型や衣装を含めて、日本のGSにも大きな影響を与えたと思われる。80年代ネオGSや90年代ガレージ・リバイバルにもイメージを継承するバンドが少なくないと思われる。
Blues MaGoos We Ain't Got Nothin' Yet 1966 NYC With Lyrics+4
●Blues Magoos / Electric Comic Book
1968 / Greece reissue 1988: Mercury – 834247-1 / 1988.6.23 青山パイドパイパー ¥2,180
68年の2ndアルバム。前作のガレージ・サイケを継承しつつよりポップによりプログレッシヴに進化させたサウンドは、現代のサイケデリック・リバイバルのバンドと言われたら信じてしまいそう。80年代後半、なぜかギリシャでオリジナル・サイケの再発が盛んだった。これもギリシャPolyGramの正規再発だと思われる。しかしできれば付録コミックブック付きのオリジナル・アメリカ盤を手に入れたい気持ちもある。
Blues Magoos - Pipe Dream (1967)
揃えたい
大物サイケの
レコードも