若松孝二監督急逝のニュースに続いてもうひとり重要な映画人の訃報が届いた。いや、単なる映画スターではなく成長過程に於いて途轍もなく大きな影響を受けた人物である。シルビア・クリステル。この名前を聞くだけで胸の高鳴りと下半身の疼きを禁じ得ない。私のTwitterのアカウント名はMiro Kristelという。Miroは画家のジョアン・ミロから取った。Kristelは滝川では勿論なくシルビア様の名前を拝借したのである。深く考えず思いついたこの名前には潜在意識の奥に沈殿し私の実存を形成する重要な鍵が隠されているのである。
フロイトは著書「夢判断」の中で"夢の素材は記憶から引き出されており、その選択方法は意識的なものではなく、無意識的である。したがって一見すると乱雑な夢の内容においても無意識に基づいた統合性が備わっており、さまざまな出来事を一つの物語として連結させるものであり、それにはさまざまな狙いがあるが、一般的には夢とは潜在的な願望を充足させるものである。つまり夢は無意識による自己表現であると考えることができる"と考察した。さらに文明社会の成立により人間の本能が制限されているものの、それは消滅したわけではなく、抑圧された性欲を夢は暗喩的な表現によって満足させるものと捉えることができると論じている。
ユングは「自我である私」が「なにゆえ私である」のかを問うた。「私である意味」は、魂の完全性、円球的完全性の実現にあると考えた。無意識は、自我を自己(ゼルプスト)すなわち「神」へと高めて行く構造を持つと仮定した。すなわち「Unconscious=無意識」は自己実現のための欠かせない源なのである。
頭脳警察のPANTAさんは自伝「歴史から飛び出せ」の中で自らの性の遍歴を包み隠さず事細かに語っている。伝説の”反逆のロックンローラー”であるPANTAさんが自分と同じように性の芽生えを経験し、同じ悩みを抱いて思春期を過ごしたことを知り、読んでいて心の枷が溶けていった。ここに私の性遍歴を綴るのはさすがに憚られるし、シルビア様の映画はあくまで「ソフトポルノ」で直截的な表現はベールに隠されているので詳細は伏せておこう。
私が生まれて最初に"性なる館"を経験したのは幼稚園の時。メンコが流行り勝負をして勝てば相手のメンコが手に入った。絵柄は月光仮面やオバQや鬼太郎といった漫画やプロレスラーや野球選手の写真だったが、ある日友達の一人が父親から貰ったというサントリーかニッカが宣伝用に作ったメンコを持ってきた。そこには肌も露わな金髪女性の写真があしらわれていて、すぐにみんなの憧れの的になった。羨ましくて散々苦労の末に何枚か入手したのだが、家へ帰ると見つからないように引き出しの奥に隠し、親がいない時に取り出してひとりでドキドキして見ていた。子供心に"いけないもの"だと理解し、それを手に入れたスリルと興奮に酔っていたのである。その頃テレビでは「仮面ライダー」の後に「ハレンチ学園」が放映されていたと記憶する。親が一緒なので観せてもらえなかったが、漫画本でその内容は知っており、夜ベッドの中で「仮面ライダー」や「ウルトラマン」に加え「ハレンチ学園」の内容をごっちゃにしたストーリーを夢想しながら眠りに落ちたものだった。
小学校に上がると戦隊ものや怪獣ものに夢中になるが、異性への興味は尽きずスカートめくりや身体へのタッチは遊び感覚で流行っていた。相手が「エッチ!」と反応するのが面白かった。学年が上がるにつれ異性の身体の成長を意識し出す。体育着に着替えるのが別々になり男女の違いを次第に理解する。高学年になると性的なものへの興味は否応にも増し、少年雑誌や漫画本の記事や絵に想像を膨らませる。そんな時に手にした映画雑誌にその写真が載っていた。籐の椅子に座り胸も露わに挑発的にこちらを見つめる美しい女性。妄想少年の心はイチコロでその虜になった。暫し眺めたまま湧き出る昂奮に身を任せるしかなかった。”雷に打たれたような衝撃”とよく言われるが、この写真を見た時のインパクトは正に電撃的だった。幼時に見た禁断のメンコや「ハレンチ学園」の妄想、スカートの下にチラ見した白い下着などの記憶が頭の中を嵐のように駆け巡った。シルビア様はそれほど神々しかった。
▼記念すべき第1作。主題歌も大ヒット
Emmanuelle(エマニエル夫人)- Pierre Bachelet
▼続エマニエル夫人。シルビア様のセクシーな歌に萌え
Francis Lai & Sylvia Kristel 映画「続エマニエル夫人」 Emmanuelle II L'Anti Vierge
▼エターナル・エマニエル(TV映画)のテーマ曲を歌うシルビア様
Sylvia Kristel "La Chanson d'Emmanuelle" (live officiel) | Archive INA
ちょうどその頃「エマニエル夫人」をはじめ「青い体験」「O嬢の物語」などソフトポルノ映画が人気で映画館や雑誌に写真や記事が紹介されていた。実際に映画を観るのは10年以上後になるが、美しい女性のヌード写真やエロチックな紹介文だけで十分だった。同じ頃フランスの小説家ギョーム・アポリネールが匿名で出版した「若きドン・ジュアンの冒険」という小説の翻訳が出版され仲間内で話題になった。10代の少年が休暇で訪れた別荘で召使や自分の姉や叔母と次々にベッドを共にするという話で、官能的なイラストも載っており性に飢えたガキにには絶好の指南書だった。
▼青い体験
青い体験 1973 (MALIZIA MOVIE CLIP)
▼O嬢の物語
The Story of O 1975 movie trailer - watch online, Corinne Clery film ★★★★★
そんな風に思春期を乗り越えた私にとってシルビア様は永遠の女神であり究極の女性像として心の奥底に刻みつけられている。60歳という若すぎる死に驚きはしたが、若松監督の場合のような切実な喪失感は感じない。私の中のシルビア様は今でも誘いかけるような瞳で籐の椅子に座ったままなのである。
ポスターに
刻まれたままの
女神さま
今の子供たちにとっての女神さまは誰なのだろう。