浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

官僚支配

2012-08-11 15:13:33 | 日記
 様々な政策を追求していくと、そこには必ず官僚の利害と、そこに群がる利権とが現れてくる。中日新聞社の論説委員・長谷川幸洋『官僚との死闘700日』(講談社)を読んでいるが、これには官僚の狡猾な動きが詳細に描かれている。

 長谷川は、最近の論説は十分に評価できるものだが、かつてはそうではなかった。安倍政権を裏で支えてもいたから、私にとっては気分がいいものではない。安倍政権が行った、たとえば教育基本法の改悪などは、今もって許せないものである。

 本書は、安倍政権との関わりが中心に描かれてるのであるが、そこには自らの利害に敏い官僚の底知れない動きが記されている。

 その結果、長谷川はこう断じる。

 「政権が霞ヶ関を使いこなしてきたのではなく、逆に、霞ヶ関が政権を操縦してきたのである。ずばりいえば、権力は永田町ではなく、霞ヶ関にあった。この国では、霞ヶ関が舞台裏で政権を操縦する「闇の権力構造」が、しっかりと形成されていたのである。」(206頁)

 野田政権の消費税増税も、財務省をはじめとした官僚たちの指示の下に動いているに過ぎない。財務省は、増税によって増えるカネを、各所にばらまくことによってさらに自らの省益を拡大できるだろう。そしてこれは、利益誘導によりみずからの選挙基盤を強化したい自民党や公明党などの政治家たちの利益とも合致する。

 今回の「社会保障と税の一体改革」のなかの消費税増税を、社会保障につかうならなどと、お人好しの国民は容認する姿勢を示しているが、それはありえない。今日の『中日新聞』の記事にも説明があるように、法案では増税による13兆5000億円を全額、年金や医療に回すと明記しているが、官僚はきちんと落とし穴をつくっている。消費税増税による経済悪化に備え、「成長戦略や防災および減災に資する分野に資金を配分する」が、附則につけられている。おそらくこの附則が大いに活躍することだろう。

 私たちが政治に関心を持つと言うことは、政治家の動きだけに目をとめていてはわからないことが多いのだ。官僚の動き、それはあまり表に出てこないが、それをも注視しなければならない。

 官僚の、反国民的な動きを封じることができるようにしなければならない。

 国民の敵は、官僚でもある。

 なお最近の長谷川の論評は、良いものが多い。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33234

 なお、今日の『中日新聞』(『東京新聞』)の社説を掲載させていただく。


 消費税増税法が成立 「代議」機能せぬ危機 2012年8月11日

 消費税増税のための「一体」改革法が成立した。民主党マニフェストを逸脱し、半数を超える国民が依然、反対だ。代議制は果たして機能したのか。

 「民主党政権は、マニフェスト違反の消費税率引き上げを行う権限を主権者からは与えられていないんです。議会制民主主義の歴史への冒涜(ぼうとく)であり、国権の最高機関の成り立ちを否定するものです」

 今年一月、野田佳彦首相の施政方針演説に対する各党代表質問で、こう指摘した議員がいた。自民党総裁、谷垣禎一氏である。

◆マニフェスト違反
 政権選択選挙とされる衆院選で多数の議席を得た政権与党が内閣を組織し、選挙公約に基づいて法律をつくり、政策を実行する。

 それは谷垣氏が指摘するまでもなく、議会制民主主義(代議制)の「大義」であり、衆院議員が国民の代表として議論する「代議士」と呼ばれる所以(ゆえん)だ。

 もちろん、激しく変化する現代社会では、政治的、経済的、社会的な情勢変化に応じ、柔軟に政策変更をすることは必要である。

 東京電力福島第一原子力発電所の事故後に、それまでの原発推進路線から脱原発路線に転換するのは当然であり、代議制の大義を損なうものではない。

 しかし、消費税増税はどうだろう。民主党は二〇〇九年衆院選マニフェストに消費税増税ではなく行政の無駄削減による財源捻出を盛り込み、当時の鳩山由紀夫代表ら各候補が「消費税は増税しない」と公約して政権に就いた。

 野田氏は選挙戦で「書いてあることは命懸けで実行する。書いていないことはやらない。それがマニフェストのルール」とまで言い切っていたではないか。

 それが一転、消費税増税に政治生命を懸ける姿勢に変節した。これを、民主党の「マニフェスト違反」と呼ばずして何と呼ぼう。

◆政治を国民の手に
 本格的な少子高齢化を迎え、社会保障を持続可能な制度に抜本改革する必要はある。国の借金が一千兆円に上る財政事情への危機感は国民も共有しているだろう。いずれ増税が避けられないとの覚悟も多くの国民にあるに違いない。

 とはいえ、誰がどうやって税金を負担するのかというルールづくりは、議会制度の成り立ちをひもとくまでもなく、民主主義の存立にかかわる重大な問題だ。公約違反の一方的な課税は国民の納税者意識を蝕(むしば)みかねない。

 国民は選択していない消費税増税を、民主党政権が政府や国会の無駄を削ることなく、社会保障改革の全体像を示すことなく強行したことに怒りを感じているのだ。

 当初は公約違反を批判しながら公共事業費増額との引き換えなのか、消費税増税に加担した自民、公明両党も同じ穴の狢(むじな)である。

 自分たちの思いが政府や国会に届いていない、代議制が機能していない危うさを感じているからこそ、消費税増税に国民の多くが反対し、脱原発、原発再稼働反対を訴える人たちが週末ごとに国会周辺を埋めているのだろう。

 政府も国会も、マニフェスト違反の消費税増税や首相の再稼働容認を機に代議制が危機的状況に陥りつつあると気付くべきである。

 この状況を、国民が政治の「劣化」と切り捨てるのは簡単だが、それだけで政治は変わらない。街角で声を上げることは重要でも、その声が為政者や議員に届かなければ政治を動かせない。

 代議制を鍛え直し、政治を国民の手に取り戻すには、選挙で意思を示し、議員や政権を厳選するしかない。

 消費税は一四年四月に8%、一五年十月には10%に引き上げられる。それ以前、現衆院議員の任期満了の一三年八月までに必ず衆院選は行われる。消費税増税の是非を国民が選択する最後の機会だ。

 消費税増税に納得できれば、賛成の政党、候補を、できなければ反対の政党、候補を選べばいい。

 もちろん、選択すべき政策は消費税だけではない。政府や行政の無駄にどこまで切り込むのか、どんな社会をつくるのか、社会保障制度改革の具体的な設計図や、安全保障・外交政策も判断基準だ。

 マニフェストに嘘(うそ)はないか、官僚の言いなりになりそうか否か、政党や候補の力量も見極めたい。

 投票先を決めるのは有権者だが判断材料を提供するのはわれわれ新聞の仕事だと肝に銘じたい。

◆速やかに解散せよ
 首相は衆院解散の時期を「近いうち」と述べたが、消費税増税の是非を国民に問うためには速やかに解散する必要がある。

 そのためにも、違憲状態にありながら各党間の意見の違いから進んでいない衆院「一票の格差」の早期是正に、首相は指導力を発揮すべきだ。民主党に有利な時期を探ろうと是正を怠り、解散を先送りすることがあってはならない。

 

 
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『けーし風』

2012-08-11 11:49:11 | 日記
 『けーし風』という雑誌がある。発行元は、新沖縄フォーラム刊行会議である。沖縄で発行されている、沖縄に関わることが記されている雑誌だ。季刊で、もう75号になる。

 それが今日届いた。特集は、「歴史の書き換えに抗する」である。

 日本の支配層は、米軍と一体となって、世界各地で軍事行動を展開する方向に舵を切っている。「動的防衛力」という語が、その作戦を表している。

 また自衛隊は、対中国に焦点をしぼり、沖縄への自衛隊配備を強化しようとしてる。
 ところで1945年に展開された沖縄戦では、本土防備の遅れを挽回すべく沖縄を「捨て石」にしようと、沖縄の住民を巻き込んで、米軍と激しい戦闘を繰り広げた。その際、日本軍は住民を守らず、各所で住民を殺害するという挙に及んだ。自国の軍隊が、自国の民を殺すという地獄絵があった。その記憶は、当然、忘れられてはいない。

 そして今、かつての日本軍は、自衛隊となっている。

 日本の支配層は、沖縄に自衛隊を派遣増強したい、しかし住民は沖縄戦で何があったのかを知っている。そしてそれを伝えてきた。

 日本の支配層は、そこで、歴史認識を断絶させようという作戦に出てきた。「歴史の書き換え」である。

 それに抗して、沖縄の人々が反撃に出ている。その動きが、作家目取真俊氏により活写されている。



 沖縄で何が起きているか、それは本土の私たちにとっても重要関心事でなければならない。『けーし風』は、そうした沖縄の動向を伝えてくれる。本土の何れの新聞も、沖縄のことはほとんど報道しないから、自覚的に情報を得る必要がある。

 『けーし風』、一冊500円。年間2000円である。オンラインショップ「BOOKS Mangroove」から注文できる。このショップ、他の沖縄の雑誌も買うことができる。

 http://mangroove.shop-pro.jp


 
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