日本政治全体の動向から考えると、大阪維新の会など維新勢力の拡大は喜ぶことはできない。しかし今回の統一地方選挙の結果を見ると、関西地方では圧倒的な強さを持っている。いずれそれはほかの地方の都市部へと広がっていくだろう。維新勢力の拡大を快く思わない者は、維新勢力についてきちんと分析すべきである。
『世界』6月号は、これに対し二本の論文を掲載している。一つはノンフィクションライター、松本創の文である。
私は維新政治を批判的に分析した本は何冊か読んでいるが、維新勢力に対して「経済的弱者の味方」、「一般人の感覚に近い」というイメージを、「普段から政治に関心を払い、積極的にニュースに接している人ほど」持っている、とある。これを読んで、へーと驚いた。
「どの選挙でも、有権者の関心はまず景気や雇用、自分たちの生活にどれだけ実利的メリットがあるかです。誰もが関わる教育という分野で、その実績をアピールしてきたことが『経済的弱者の味方』イメージにつながっている」と、坂本治也関大教授の分析を紹介している。
維新勢力は、「教育無償化」「塾代助成」をうちだし、それが成功しているという。
もう一つは、吉弘憲介(桃山学院大学)の文である。維新勢力は、「(所得制限撤廃など)アッパーミドル層に対して公的サービスの供給を広げる」とある。相対的に豊かな中間層に実利が浸透するような政策、とでもいえようか。
確かに、私も共働きで子どもを育てていた頃、保育料は、そんなに給与を得ていないのに(夫婦合算だから)いつも最高額近くを払っていた。ミドル層は、所得税や保険料など、かなり「とられている」。そしてさらにそういう人たちへの公的サービスは、高い所得税額などで受けられない、ということが多い。
そういう人たちへの公的サービスの供給を行うことによる中間層の支持を得るというのは、なかなかの着眼であると思う。実際の数としてはそういう中間層は多いのである。
いわゆる革新勢力は、中間層ではなく、社会的弱者への公共サービス給付に重点を置いてきた。これはとても正しいことだ。維新勢力は、しかしこうした層には配慮しない。
『世界』の二論文にみられるような分析をきちんと行うことは喫緊の課題である。維新勢力は、経済的課題だけで攻めてきているのではなく、重要な憲法問題、外交問題などでも攻めてきているからでもある。
勉強しなければならないことは多い。