浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

戦争のこと

2023-05-10 11:24:09 | 国際

 ロシアによるウクライナ侵攻に関して、欧米や日本のメディアは、もちろん反ロシアの報道を繰り返している。そのなかから、どうもおかしいのではないか、という疑問がでてくるのは必然であろう。戦争というのは、戦いあっている国々のどちらが正義であるのかを断定的に決めることはできない。

 ここでも松尾邦之助の登場を願おう。

いずれにしても、国家と国家の戦争は、利害打算の相剋であると同時に、教育や政治宣伝によって煽られた集団的、排他的な民族感情に支配されたものである。(219)

 実際その通り、今、ウクライナ戦争に関わっている国々は、それぞれが「利害打算」をもって参画しているのである。

 さて、戦争の開始を冷静にみつめるためには、時間的・空間的に俯瞰してみなければならない。

 アメリカは、このブログで何度も記してきたように、きわめて独善的な国家である。自国のためには何でも行う。ベトナム戦争、イラク戦争・・・・・アメリカが行った侵略戦争は数え切れないくらいである。とりわけあまり報じられてこなかったが、中南米に対する侵略行為は無数にある。その代表的なものが、チリにおけるアジェンデ政権をクーデターを起こして倒した事件である。

 今までアメリカがどれほどの「悪」を行ってきたのかは、以前紹介した『アメリカの国家犯罪全書』(作品社)をよめば一目瞭然である。

 さて今度はロシアである。ロシア帝国の時代までさかのぼることはしないが、ロシア革命後にできたソビエト連邦は、「収容所」を設け、「政敵」と睨んだ者を即座に銃殺するという蛮行を行った。世界各地の社会主義者たちが、「社会主義の祖国」と崇めたソ連は、自国のことを優先し、さらにそのなかでも共産党に関わる者だけが特権を享受するという体制をつくりあげた。ノーメンクラトゥーラ、「コトバンク」ではこう説明されている。

社会主義国家の各級党機関の職務・権限、とくに幹部ポストのリスト、およびこのポストの在任者または候補者の名簿を意味し、かつての職業的革命家集団にかわってスターリン以後の体制を支える特権的支配層をさす。旧ソ連についてみると、その数は70万人ほど(1700万党員の約4%)で、指導的党機関(その幹部)によって推薦・任命される。革命ではなく、現状維持(権力保持と立身出世)を志向する保守的体質をもつ職業的管理層・体制派エリートである。

 社会主義体制崩壊後も、ノーメンクラツーラは壊滅することなく温存され、旧ソ連時代よりもむしろ強化されたもののようで、旧ソ連時代からのメンバーが引き続き現在のロシアの新支配層の多くを占めるばかりでなく、なかにはマフィアと手を組んで地下経済の担い手として暗躍する者も少なくはない。

 この説明にもあるごとく、現在のロシアでも、ノーメンクラトゥーラという支配層は、権力の中枢にいるのだ。もちろんプーチンもそのひとりである。

 ソビエト連邦は、ナチスドイツと提携しポーランドを分割したり、敗戦国日本の兵士たちをシベリアで強制労働させたり、正義の側に立っていたわけではない。

 ソビエト連邦は、ハンガリー動乱、民主的な改革を行おうとしたチェコに侵入し、その改革をぶっ潰した。ソビエト連邦崩壊後も、今までソ連邦内にあった諸地域が独立を模索しようとすると、それを押し潰そうとしてきた。その代表的な事例がチェチェンである。旧ソ連邦だった地域に対するロシアの蛮行を、周辺諸国は恐怖を持って見つめてきた。ソ連の影響下にあった旧東欧諸国のロシアに対する強い警戒は、ソ連とロシアが歴史的につくりあげてきたものだ。

 なぜ現在、旧東欧諸国がウクライナを支援するのか、をしっかりと見つめるべきである。

 さてロシア・プーチン政権がウクライナに侵攻した。これは以前記したことがあるが、国際法において明確に違反行為である。ロシアが、アメリカをはじめとしたNATOの東方拡大に対抗して・・・・という言説があるが、そうであっても、ロシアがウクライナに軍事侵攻したことは、非難されるべきである。もしアメリカなどによる圧迫がロシアに対して展開されていたのなら、それに対して明確に反論し、軍事的な対応ではない方法を採用すべきであった。ロシアのウクライナ侵攻により、ウクライナの多くの国民は、反ロシアの感情を強く抱くようになり、今後長期間ロシアとウクライナの敵対感情は存続することだろう。

 現在、日本の自衛隊は南西諸島に展開している。敵として対象となっているのは中国である。日本で「敵基地攻撃能力」というとき、それは中国に対して向けられている。そしてアメリカ軍が、台湾周辺に軍艦を派遣している。まさに日米が、中国に軍事的に圧迫を加えている。

台湾危機」は、日本(アメリカ)と中国との条約からみれば、日本やアメリカがとっている行動はまったく条約違反である。

 日米の軍事的挑発に対して、中国は軍事侵攻するのだろうか、もし現状のなかで、日本に軍事的な攻撃をしかければ、それは国際法違反となる。もちろん中国が、である。アメリカは日本をそそのかして軍事的挑発を激化させ(軍事的挑発は軍事的侵攻ではない)、中国に先制攻撃をさせようとしているのかもしれない。しかし中国はそんな冒険的なことはしないだろう。

 軍事的侵攻をしない、というのが、20世紀からの国際法の原則である。

 私たちは、「国家」と同一化した認識をもってはいけないのだ。あくまでも、庶民の眼で見ること。それもきわめて冷静に、である。

 

 

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無思想の研究者たち

2023-05-10 07:33:16 | 近現代史

 辻まことと松尾邦之助の関係について調べている。松尾については、玉川しんめい『エコール・ド・パリの日本人野郎』(朝日新聞社、1989年)がフランス時代の松尾について、また戦後日本に帰国してからは、松尾自身が『無頼記者、戦後日本を撃つ』(社会評論社、2006年)を書いている。

 辻潤、まことが訪欧したとき、松尾との間に深い人間関係が、とりわけ辻潤との間に成立していた。しかし、松尾が帰国したとき、すでに辻潤は餓死していた。松尾は、辻潤を高く評価している。

 さて今私は、松尾自身が書いた『無頼記者・・・』を読んでいるのだが、以前読んだときに赤線をいれたところに、再び線を引いている。再び線を引いたところはたくさんある。というのも、松尾の、日本人に対する批評がまったく古くなっていないからである。

 たくさんあるなかで、この文を、まず私はとりあげたいと思った。

 戦後になって学問思想についてとやかくいうようになったとはいえ、その思想学問なるものが、みな「研究書」の類であり、つねに研究者でしかない大学教授たちは、ご自分の思想を持たず、“研究”という客観の煙幕をはって虚名を博す卑怯者でしかない。(224)

 今の若い研究者は、任期付きの仕事しかないために、自分自身を売り込むこと、これなら認められるのではないかという気持ちから、思想なんかはまったくないままに、研究する価値があるのかどうかもわからないものに打ち込んでいる。

 すでに亡くなったり、一線を退いている研究者の多くは、思想をもち、生きている現在の課題を意識しながら研究活動をしていた。私はそうした姿をみながら研究をしてきた。

 しかし今、若い研究者のなかにそういう人をみつけることは少なくなっている。だから研究発表を聴いていても、研究のための研究であって、それがどうしたの、という感想しかもてなくなっている。

 そうした研究状態に不満をもちながら、しかし良くなる雰囲気もないために、私自身研究会から足抜けしたいという気持ちを持ち始めている。研究会にも参加することがすくなくなっている。まだ農作業をしていたほうが、私自身生き生きしているように思う。

 思想を持たない者の研究は、はっきりいってつまらない。

 

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