今日、静岡県立美術館に行った。「無言館と、かつてありし信濃デッサン館ー窪島誠一郎の眼」という展覧会が行われていたからだ。なかなか見応えがあった。この展覧会はおそらく巡回しない。購入した図録は、2300円、奥付には発行は静岡県立美術館とあるから、おそらく静岡県立美術館のみの開催だと思う。12月15日まで開催される。
まずよかったことの一つは、無言館に行ってもここに展示されている絵をすべて見られるわけではないことで、たとえば浜松出身の中村萬平の絵は、無言館では「霜子」だけを見ることができるが、ここでは自画像を含めて5点が並べられていた。それはおそらく他の画学生の絵も同様で、無言館の展示スペースには限りがあり、所蔵しているすべての絵を並べているわけではない。また他の美術館に所蔵されているものもあるだろう。
それから、陸軍などが、すでに高名となった画家たちに「戦争記録画」を描かせていたが、そのうち藤田嗣治の「アッツ島玉砕」、小磯良平の「娘子関を征く」が展示されていた。わたしはそれらの絵の写真を見たことがあるだけであったが、さすがに一流の画家の絵だと感心した。小磯の絵はほんとうにうまい。また藤田の絵も、迫力があった。藤田は積極的に軍に協力して「戦争記録画」をたくさん描き、戦争協力者として指弾された。わたしも指弾する立場ではあるが、実物の「アッツ島玉砕」を見て、戦争協力を超えたものがあることを感じた。戦争協力の意図を持って描いても、戦争の実相を描こうと思えば思うほど、戦争の本質が浮かび上がってくる。
そして構成がよかった。序章として、戦没画学生の自画像が並ぶ。戦場に行く前の、青年の自画像である。彼らは、戦場で、あるいは軍の病院などで亡くなった。生前の、おそらく未来をもった若者の群像である。
第一室が「遺された絵と言葉」。ベストセラーである『きけわだつみのこえ』に、関口清の絵が掲載されていることに気づかせてくれた。
第二室は「無言館の誕生」。無言館を誕生させたのは、画家・野見山暁冶氏と窪島氏である。その経緯が展示されていた。野見山氏の絵というと抽象画であるが、そうでないものが展示されていた。
第三室は、「最期まで描こうとしたもの」。画学生が、戦場での死が予想されたとき、彼らは何を描いたか。家族であり、自らが住むふる里であり、・・・・
第四室は、「静岡出身戦没画学生」。浜松出身の野末恒三、中村萬平、掛川出身の桑原喜八郎、河津町出身の佐藤孝の四人の絵が並ぶ。いずれも東京美術学校で学んだ。
第五室は「戦争と向き合う」ということで、藤田と小磯の絵が展示されていた。そのほか、画学生の絵も並ぶ。「戦地でなお絵を描いた」からである。靉光、麻生三郎、松本竣介、鶴岡政男ら新人画会のメンバーの絵。そして軍事郵便。
第六室は、「窪島誠一郎の眼」。無言館に至るまでの、窪島の絵を見つめる眼を探るというものだ。
思いのほか多くの絵があり、なかなか見終わるまでに時間がかかった。昨日からはじめられたが、見に来てよかった。多くの人の眼に触れることを期待する。
一般1200円、70歳以上600円、大学生以下無料である。
〈付記〉2300円の図録を読んだ。とても良い内容であった。