浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

【本】中国新聞「決別 金権政治」取材班『ばらまき 選挙と裏金』(集英社文庫)

2024-10-30 20:16:39 | 社会

 フダ(票)をとるために必要なのはタマ(金)だという。フダをたくさんとるためには、タマを用意してばらまかなければならない、というのが、統一教会党=自民党の選挙戦術である。

 だから、自民党は、あらゆるところからカネをとってくる。政党交付金だけではなく、パーティー収入、企業などからの献金。そして官房機密費も投下される。カネ、カネ・・・・

 中国新聞社は、河井克行、案里夫妻による金権選挙を契機にして、政治とカネの問題を粘り強く取材をつづけ、数々のスクープを放った。その経緯が、本書には詳しく書かれている。まさにジャーナリズム精神にあふれた本である。政権中枢から多額のカネが用意され、河井夫妻はそのカネを地方議員にばらまいた。その実態を詳しく調査し、新聞紙面で報じた。

 この中国新聞社の追及が、今回の衆議院議員選挙での自民党議員の落選につながっているかもしれない。それほど力強い取材であった。

 ただ問題は、中国新聞社の追及は、メディアスクラムをつくりだせなかった。中国新聞の取材班は、スクープを放つと同時に、他紙が後追いで書いてくれると思っていたようだが、しかしそれはなかった。高知新聞のように、地方紙でのってきた社はあるけれども、全国紙はのってこなかった。全国紙のジャーナリズム精神はすでに枯渇してるから仕方ないかも知れない。

 もうひとつ、取材班は、「政治は「国民を映す鏡」と言われるように、国の主権者である有権者の姿勢も問われている」とし、「一票を投じよう」と訴えかける。その通りである。

 しかし利権にまみれた政治をかえるためには、もっともっと多くの人が投票に参加することと、タマに対して強くならなければならないと思う。マイナ保険証に関して、2万ポイントを欲しいからと、人びとが役所に殺到する姿をみて、わたしは「こりゃぁ、ダメだ」と失望したが、タマをぶらさげられると権力者の言うことをきいてしまうというあり方はなくしていかなければならない。タマはアメであるが、アメのあとにはムチが出てくることを知るべきだ。

 ともかく、こうしたジャーナリズム精神に満ちた本は、もっと読まれるべきである。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「戦争と画家」という歴史講座

2024-10-30 09:01:51 | 近現代史

 三回にわたる歴史講座「戦争と画家」の三回目のレジメを作成しおわった。

 第一回目は、浜松出身の画家・中村宏が戦争画を描き始めた。自らが戦時下、浜松で幼少期を生きた時に起きた、B29による空襲、米艦載機による銃撃、そして遠州灘沖から行われた艦砲射撃を描いたものだ。若い頃から批判的精神をもった中村は、しかし戦争を描くことはなかった。ではなぜ彼は描き始めたのか。ロシア・ウクライナ戦争、イスラエルによるパレスチナへのジェノサイド、そして沖縄における自衛隊の基地増設など、国家が戦争を準備していることに危機感を持ったのではないかと、わたしは思っている。

 この回では、藤田嗣治、向井潤吉らの「作戦記録画」を紹介し、どのような気持ちでそれらを描いたかを話した。そして通常は彼らがどういう絵を描いていたかを並べ、戦後、そのような絵を描いたことをどう振り返ったかを語った。他方、「作戦記録画」に協力しなかった画家も紹介した。

 第二回目は、召集され、中国で従軍した浜田知明、満洲に行きその後シベリアに抑留された香月泰男、この二人の絵を紹介した。この二人は、軍隊や戦争に対して鋭い批判を持ち、それらを作品に遺している。

 第三日目は、「無言館」に関わる画学生についてである。遺された絵は多くはないが、そこには絵を描きたい、描き続けたい、生きて絵を描きたいという思いがこめられている。しかし彼らは戦死、ないし戦病死した。彼らの短かった人生をふり返り、戦争の非情さを話すことにした。

 戦死した画学生のなかで、山口県出身の久保克彦は、東京美術学校卒業までに、ほぼ自分の絵を完成させた。おそらく、召集されたら死ぬしかないという気持ちから、自分の短い人生の中で、学んだこと、考えたことをすべて絵に込めたのではないかと思う。逸材であったと思う。

 戦没した画学生のなかで、『きけわだつみのこえ』に手記やデッサンが載せられている者が二人いた。一人は静岡県出身の佐藤孝である。書庫から『きけわだつみのこえ』をとりだして、あらためて読み進めた。

 学徒動員、特攻作戦など、批判的知性をもった教養あふれる若者たちを、あえて戦死させようとした作戦であったのではないかと思うようになった。

 講座が終わったら、それぞれについて考えたことを紹介するつもりである。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする