窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

知的複眼思考のすすめ-第97回YMS

2018年07月12日 | YMS情報


  7月11日、mass×mass関内フューチャーセンターにて、第97回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催いたしました。

  今回の講師は、関東ディベート交流協会事務局長、僕自身も日ごろ日本交渉協会でお世話になっている高瀬誠先生。「知的複眼思考のすすめ-理性と感性を統合するEQディベート」と題してご講義いただきました。昨年11月に開催された、日本交渉協会の「第12回ネゴシエーション研究フォーラム」も同じテーマでしたので、重なる部分も多くありますが、ご了承ください。

  ディベートというと、「論理的な言動で相手を論破する」攻撃的なもの、何か理屈っぽく人間的な温かみのないネガティブなイメージがかつての僕にはありました。テレビで見かけるいわゆる討論番組というものが、そのようなイメージに拍車をかけているのかもしれません。しかし高瀬さんによれば、ディベートの第一義は、聴き手を説得させるのではなく納得させることにあるそうで、しかもその相手は討論の相手ではなく第三者だということです。

  したがって、ディベートには言語的・非言語的に関わらず、コミュニケーションの総合力が求められます。ひょっとすると、ディベートにネガティブなイメージを持っている人の多くは、”debate”(討論)と”dispute”(論争)を混同してしまっているのかもしれません。

  コミュニケーションを「言葉などを通じて自分の気持ちや意見を相手に伝えること」と定義し、その対象によって分類すると、ディベートは以下のように位置付けられます。

①対象が自分:決断(意思決定)
②対象が相手:指示・命令
③対象が自分と相手:交渉
④対象が第三者:ディベート

  次に、コミュニケーション能力には以下のようなコンピテンシー(その方面に優れた能力を発揮する人々に共通する能力)があると言います。

①論理的思考能力(主張を論理的に構築する)
②傾聴力(聞く<聴く<訊く:問題意識を持って訊く)
③表現力(何を言うか<誰が言うか:パトス(感性)の利いたプレゼンスキル)
④平常心(相手が自分を認めない限り、Win-winの関係を作ることはできない)

前述のようにディベートとは第三者を納得させる技術であり、また主張者を遮ることも許されません。つまり、ディベートにおいても上記のコンピテンシーが求められるということになります。



  ディベートは分類すると、以下の4つのタイプに分かれるそうです。

1.アカデミック・ディベート(米国式・日本の主流)

  日本ディベート協会のHPによれば、アカデミック・ディベートとは、「議論の教育を目的とし、ひとつの論題の下、2チームの話し手が肯定する立場と否定する立場とに分かれ、自分たちの議論の相手に対する優位性を第三者であるジャッジに理解してもらうことを意図したうえで、客観的な証拠資料に基づいて論理的に議論をするコミュニケーション活動」とあります。一言で言えば、学生が行うディベートであり、事前のリサーチ力・論証力を重視します。
 
  興味深かったのは、2015年に行われた囚人とハーバード大学の学生とのディベート大会で、囚人が学生を負かしたというお話です。囚人が勝ったということ自体が大事なのではなく、こちらの記事にあるように、ディベートが彼らに与えた好影響は、ディベートを学ぶことの意義を良く表していると思います。

2.パーラメンタリー・ディベート(英国式)

  こちらも日本ディベート協会のHPによれば、「ディベートの試合直前の数十分間前に論題を示し、即興的に行うディベート」とあります。即興性重視型ディベートも呼ばれ、スピーチ力、即興力、日ごろの実力が重視されます。

3.サブスタンティブ・ディベート

  一言で言えば社会人のディベート。構成や論理展開のみならず、説得力のある裏付けなど結果が重視されるディベートと言えます。

  これらの一般的なディベートが比較的論理性重視だとすれば、高瀬さんが行っているEQディベートとは論理と感性の相互作用を重視するディベートであるということができます。EQディベートでは専門家である審査員のみならず、一般の聴衆にも投票権があります。つまり、一般聴衆をも納得させるには論理だけでは不十分だということです。

  ディベートの起源は、古代ギリシアにおける「弁論術」や「弁証術」に遡ると言われています。『弁論術』を著したアリストテレスは、人を説得するためには(即ち、ディベートのためには)、ロゴス(論理)、パトス(共感)、エトス(信頼)の三要素が重要であると述べています。この三者は不可分の関係にあり、強いて言うならロゴス(論理)がエトス(信頼)を醸成し、さらにパトス(共感)がそれを強化する関係にあると言えそうです。高瀬さんの提唱しておられる「EQディベート」には、この三つの要素がバランスよく求められるということになります。EQディベートは、人間の右脳、左脳そして大脳辺縁系(いわゆる感情脳)をバランスよく鍛え、結果として前述の4つのコンピテンシーを磨くことにつながります。

  今回のテーマにある「知的複眼的思考」とは、ディベートによって磨かれる視野・思考力のことを言います。ディベートは物事の肯定と否定が常に両方できなければなりません。自ずとディベートを行うことにより、物事を両面から見る訓練になります。「常識とは、18歳までに身につけた偏見のコレクションのことを言う」という、アルバート・アインシュタインの有名な言葉がありますが、ディベートは固定概念を疑い、物事を広い視野で見る格好の訓練であると言えるでしょう。

「第一級の知性を計る基準は、二つの相対立する思想を同時に抱きながら、しかもそれらを機能させる能力を維持できるかどうかということである」―スコット・フィッツジェラルド―



  今回はロゴス(論理)、パトス(共感)、エトス(信頼)の内、感性(パトス)に働きかけるポイントとして、視覚の力、音声の力、言葉の力についてのお話がありました。

  まず「視覚」ですが、アイコネクトという、複数の聴き手に対してワンセンテンスごとに一人の目を見て話すというワークを行いました。簡単そうですが、3人程度の相手ですと全員を簡単に見渡すことができてしまうため、「ワンセンテンス・ワンパーソン」というのが意外に難しいことに気付きました。しかし、たとえそうであってもアイコネクトは間違いなく、その場の活性化に大きな役割を果たしていました。また、視線のほかボディ・ランゲージや姿勢の重要性についても触れられていました。

  その他の手法としては、アメリカの教育学者ピーター・クラインによって開発された”Good and New”も参考になりました。つまり、24時間以内にあった「よかったこと」や「新しい発見」を1分程度で発表するというものです。

  次に「音声(声)」。声は最も簡単に印象を変えられる強力なツール。大小、高低、スピード、店舗、そして間を工夫することで、いかに印象を変えることができるか?僕も最近テレビのインタビューを受けましたが、工夫の余地が大いにあったなと思います。最後の「間」には了解を得る間、期待させる間、展開を図る間の三つがあり、これらを学ぶには落語が最適だそうです。

三つ目は「言葉」。強い言葉を作るための5つの方法として、

①五感法…五感に訴える言葉をバランスよく盛り込む
②天地法…ギャップによりインパクトを与える
③驚嘆法…サプライズワードを盛り込む
④繰り返し法…リピートによる記憶の定着
⑤極み法…結言のキーワードから始める

が紹介されました。

  最後に、高瀬さんのお話から一つ、特に印象に残った言葉をご紹介したいと思います。

「人が動くのは心が動くから。感動という言葉はあっても、理動はない」

過去のセミナーレポートはこちら

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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