「近代日本画 美の系譜」 大丸ミュージアム・東京

大丸ミュージアム・東京千代田区丸の内1-9-1
「近代日本画 美の系譜 - 水野美術館コレクションの名品より - 」
1/10-28



新装移転オープンで話題の大丸東京店へは初めて行きました。2002年、長野市内に開館した水野美術館の日本画コレクションが紹介されています。「近代日本画 美の系譜」展です。



水野美術館とは実業家、水野正幸氏が長年にわたって蒐集した絵画による日本画専門の美術館です。(パンフレットより引用。)橋本雅邦、横山大観、下村観山、菱田春草らをはじめ、戦後の作家杉山寧、加山又造、または美人画の松園や深水などまでが網羅されています。もちろんこの展覧会でもそれらの画家の作品が展示(約60点。)されているわけですが、特に大観の「陶靖節」や観山の「獅子図屏風」、さらには今触れた戦後の画家の大作など、普段あまり見慣れない作風のものが多いのも印象に残りました。一口に日本画とはいえども、当然ながら山種美術館で見るような作品とはまた味わいが異なっています。



今回、私が惹かれたのは、同美術館の中でもとりわけ充実しているという菱田春草です。中でも淡い水色をたたえた波が岩場を荒い、霞のかかった空に鳥が群れるという「月下波」と、八岐大蛇に捧げられた稲田姫を題材とする「稲田姫」の二点は深く心に残りました。前者では波と空が渾然一体となって広がる海景が幻想的な雰囲気を漂わせ、また後者は大蛇に捧げられてしまった姫の諦念すら感じさせる様子が、(結果的に助けられるわけでもありますが。)春草一流の精緻な筆にてよく表されています。青白い顔が何とも不気味でした。



不気味といえば、美人画の巨匠、上村松園の「汐汲之図」も必見の作品です。さすがに「花がたみ」や「焔」のような凄みはありませんが、芝色にも深い着物を身に纏う女性が、どこか虚ろな表情にて後ろを見据えています。松園といえば、全く俗っぽさのない、気高き女性美を表現することに長けてもいますが、ごく稀にこのような鬼気迫るような表情を描くのがまた興味深いところです。ちなみにちらし表紙を飾る「かんざし」は非常に完成度の高い名作です。ふと簪を見やるその仕草が、屈託のない、極めて清楚な様子で描かれています。これぞ松園の美人画でしょう。

大丸ミュージアムは前回とほぼ同じ規模のスペースなのでしょうか。ぐるっと一周するような動線も分かり易く、天井もやや高くなったのか、心持ち以前よりも開放感があるような気もしました。都内としては殆ど唯一無比の存在となってしまったデパート系の美術館として、今度も充実した活動をしていただけることを願いたいです。

極めてお得な年間パスが発売されています。(2000円で一年間有効。フリーパス。)今月28日までの開催です。
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