都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「NIPPONの夏」 三井記念美術館
三井記念美術館(中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階)
「NIPPONの夏 - 応挙・歌麿・北斎から『きもの』まで」
7/12-9/15(前期:7/12-8/10、後期:8/13-9/15)

見るなら前期という評判を聞き、前半期最終日の前日に駆け込みで拝見してきました。この夏の東京でもとりわけ粋な展覧会、「NIPPONの夏」です。

「朝の章」や「日盛の章」などと言う、その章立てからしても洒落ていると感じるのは私だけでしょうか。展示されているのは、主に江戸時代の、夏に因む絵画や工芸、陶など、約100点の品々です。三井記念美術館というと、充実した館蔵品の展観というイメージがありますが、今回は千葉市美やサントリー、それにMOAや大和文華館など、他館の作品も多く紹介されています。ちなみにちらし表紙を飾る北斎の肉筆「夏の朝」も、個人のコレクション品です。ふと手鏡越しに髪を直す女性が、北斎の得意とするシャープな筆遣いで颯爽と表されています。足元の金魚鉢、もしくは水鉢の朝顔も涼し気でした。

目で清涼感を味わうには最上の作品が揃います。納戸色に染まる単衣に、秋草モチーフの紋様があしらわれた「納戸絽地秋草模様単衣」をはじめ、ガラス製のきせるの中央部がうっすらと青みを帯びた「ガラスきせる」、それに同じくガラスのねじり棒を用いて、藍、紅、透明と三色に輝く「色ガラス棒虫籠」などはその一例に挙げられるでしょう。そして何と言っても圧巻なのは、あたかも飛沫を実際に浴びるかのような臨場感をたたえた、応挙の「青楓瀑布図」です。こちらはサントリー美術館の優品ということで、先だっての展示でも目にされた方も多いとは思いますが、今回はその隣に三井記念美術館蔵の同じく応挙、「瀑布図」があわせて展示されています。ザッと流れ落ちる滝へ、うっすらと溶け込むように靡く楓が、何とも風流でした。
このような応挙の作品をはじめとする、充実した絵画が並んでいるのも今回の展示の良い点です。冒頭、師抱一の風雅な世界を思わせる一輪の朝顔が描かれた其一の「朝顔図」、または輪郭線のない没骨法にて、月影に沈む竹の様子を蝙蝠とともに示した廬雪の「月夜竹に蝙蝠図」などは必見の作品と言えるでしょう。とりわけ後者は『幻想の画家』、廬雪ならではの幽玄美の光る名品です。対決展での「虎図」に見る、ど迫力の廬雪とは対照的な、例えばかつてのこちらの展示で出ていた「蛙図」のような静謐な美意識が発露されています。力押ししない廬雪は他の追従を許しません。

のんびりと涼に浸っていた私を打ちのめすような作品が飾られていました。それがこの大胆な歌麿の「寒泉浴図」です。後ろ姿の全裸の女性が尻を迫出し、今にも桶に浸かって入浴しようとする様が描かれていますが、言葉は悪いとは思うもの、これはもはや覗き見趣味の世界にある作品と言えるでしょう。紅色を帯びた肌の感触は艶やかで、つま先で台の上に立ち、また左腕をピンと伸ばして今にも扉を閉めようとする様は、単なるエロティックを通し越した、まさに危な絵の世界が示されています。それにしても歌麿は尻に特別な嗜好でもあったのでしょうか。どこから見ても恰幅の良いその部分に視点が向いてしまいます。
この「寒泉浴図」の出ていた『夕暮の章』、もしくはそれに続く「夜の章」は、館内展示室の照明が全て落とされていました。(ケース内ライトのみ。)これまた心憎い演出です。
13日からは展示替えを挟んで後期が始まります。(出品リスト)また現在、同美術館では、お盆期間限定での夜間開館を実施中です。(13日から16日まで。)期間中20時まで開いているのも嬉しいところですが、入場料も17時以降、通常の200円引きになります。美術館の世界では、意外とありそうでなかったサービスです。
後期も是非見たいと思います。9月15日までの開催です。
「NIPPONの夏 - 応挙・歌麿・北斎から『きもの』まで」
7/12-9/15(前期:7/12-8/10、後期:8/13-9/15)

見るなら前期という評判を聞き、前半期最終日の前日に駆け込みで拝見してきました。この夏の東京でもとりわけ粋な展覧会、「NIPPONの夏」です。


「朝の章」や「日盛の章」などと言う、その章立てからしても洒落ていると感じるのは私だけでしょうか。展示されているのは、主に江戸時代の、夏に因む絵画や工芸、陶など、約100点の品々です。三井記念美術館というと、充実した館蔵品の展観というイメージがありますが、今回は千葉市美やサントリー、それにMOAや大和文華館など、他館の作品も多く紹介されています。ちなみにちらし表紙を飾る北斎の肉筆「夏の朝」も、個人のコレクション品です。ふと手鏡越しに髪を直す女性が、北斎の得意とするシャープな筆遣いで颯爽と表されています。足元の金魚鉢、もしくは水鉢の朝顔も涼し気でした。

目で清涼感を味わうには最上の作品が揃います。納戸色に染まる単衣に、秋草モチーフの紋様があしらわれた「納戸絽地秋草模様単衣」をはじめ、ガラス製のきせるの中央部がうっすらと青みを帯びた「ガラスきせる」、それに同じくガラスのねじり棒を用いて、藍、紅、透明と三色に輝く「色ガラス棒虫籠」などはその一例に挙げられるでしょう。そして何と言っても圧巻なのは、あたかも飛沫を実際に浴びるかのような臨場感をたたえた、応挙の「青楓瀑布図」です。こちらはサントリー美術館の優品ということで、先だっての展示でも目にされた方も多いとは思いますが、今回はその隣に三井記念美術館蔵の同じく応挙、「瀑布図」があわせて展示されています。ザッと流れ落ちる滝へ、うっすらと溶け込むように靡く楓が、何とも風流でした。
このような応挙の作品をはじめとする、充実した絵画が並んでいるのも今回の展示の良い点です。冒頭、師抱一の風雅な世界を思わせる一輪の朝顔が描かれた其一の「朝顔図」、または輪郭線のない没骨法にて、月影に沈む竹の様子を蝙蝠とともに示した廬雪の「月夜竹に蝙蝠図」などは必見の作品と言えるでしょう。とりわけ後者は『幻想の画家』、廬雪ならではの幽玄美の光る名品です。対決展での「虎図」に見る、ど迫力の廬雪とは対照的な、例えばかつてのこちらの展示で出ていた「蛙図」のような静謐な美意識が発露されています。力押ししない廬雪は他の追従を許しません。

のんびりと涼に浸っていた私を打ちのめすような作品が飾られていました。それがこの大胆な歌麿の「寒泉浴図」です。後ろ姿の全裸の女性が尻を迫出し、今にも桶に浸かって入浴しようとする様が描かれていますが、言葉は悪いとは思うもの、これはもはや覗き見趣味の世界にある作品と言えるでしょう。紅色を帯びた肌の感触は艶やかで、つま先で台の上に立ち、また左腕をピンと伸ばして今にも扉を閉めようとする様は、単なるエロティックを通し越した、まさに危な絵の世界が示されています。それにしても歌麿は尻に特別な嗜好でもあったのでしょうか。どこから見ても恰幅の良いその部分に視点が向いてしまいます。
この「寒泉浴図」の出ていた『夕暮の章』、もしくはそれに続く「夜の章」は、館内展示室の照明が全て落とされていました。(ケース内ライトのみ。)これまた心憎い演出です。
13日からは展示替えを挟んで後期が始まります。(出品リスト)また現在、同美術館では、お盆期間限定での夜間開館を実施中です。(13日から16日まで。)期間中20時まで開いているのも嬉しいところですが、入場料も17時以降、通常の200円引きになります。美術館の世界では、意外とありそうでなかったサービスです。
後期も是非見たいと思います。9月15日までの開催です。
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