「常設展 水墨画特集」 鎌倉国宝館

鎌倉国宝館神奈川県鎌倉市雪ノ下2-1-1 鶴岡八幡宮境内)
「常設展 水墨画特集」
8/7-31



探幽、廬雪、若冲とあれば素通りは出来ません。先述の鏑木清方記念美術館へ行った際に寄ってきました。鎌倉国宝館の常設展、「水墨画特集」です。



清方美術館から国宝館へは意外と至近です。清方美術館より神奈川県立美術館の本館前を抜け、八幡宮正面の三の鳥居から源氏池を右手に一歩裏へ入ると、すぐに唐橋を従えた和様の鉄筋コンクリートの建物が見えてきます。そこが鎌倉国宝館です。ものの10分とかかりません。



館内のスペースは、例えば興福寺の国宝館などと同じくらいでしょう。順路に向かって右側には、鎌倉界隈の寺院より集められた仏像がズラリと揃い(彫刻常設展)、その奥、左側には今展観の水墨画が並んでいます。その数、絵画26点(重文9点)、彫刻、工芸約30点を合わせ、計60点ほどです。(出品リスト)恥ずかしながら初訪問でしたが、まさかこれほど見応えがあるとは思いませんでした。

図版がないのでお伝えしにくいのですが、まず惹かれたのは建長寺由来の何とも風雅な「観音図」(室町時代)です。切り立った断崖絶壁の小滝にて、両足を水へ差し出しながら涼をとる観音様が描かれています。一般的に観音図はこのようなモチーフをとる作品が多いとは言え、ここまで気持ち良さそうにする様子もなかなかないのではないでしょうか。またもう一枚、建長寺の「猿猴図」(南北朝時代)も印象に残りました。この手長猿のふさふさの感触は、前に相国寺で見た等伯の同名の屏風にも良く似ています。南北朝期より等伯の時代へと受け継がれた画題なのでしょう。興味深い作品でした。

上に挙げた江戸絵画の三巨匠では、特に廬雪の「牧牛図」(江戸時代)が秀逸です。月の出た夜の闇の元にて、牧童に囲まれた一頭の牛が素早いタッチで描かれています。また背景の夜を薄墨で表し、前景に佇む牛を今度は濃墨で示していました。それに牧童たちの表情がどこか滑稽です。あたかも牛の体の中へとめりこんでいったかのような表現がとられています。これはシュールです。

伝雪舟の軸、円覚寺所蔵の「山路図」(室町時代)も挙げておきたい一点です。鋭角的な線で示された岩場が、堅牢な山水の空間を巧みに生み出しています。印章は比較的ハッキリと確認出来ながらも、あくまもで伝雪舟の作とのことですが、その幽玄な趣には惹かれるものがありました。

もちろん展示の半数を占める仏様も見逃せません。「薬師三尊像」(平安時代)を囲んで火花を散らす「十二神将立像」(鎌倉時代)の勇ましさは勿論のこと、鎌倉ならではの「北条時頼坐像」(鎌倉時代)なども見事な作品でした。



国宝館では今年度、今回のような常設を兼ねた特集展示を4回、また企画展を5回ほど予定しています。(10月には、開館80周年記念の全館規模の特別展、「鎌倉の昇華」を開催。)ほぼ月に一回程度の展示替えです。近場なら毎月通っていたかもしれません。



今月末、31日までの開催です。
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