「青春のロシア・アヴァンギャルド」 Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム渋谷区道玄坂2-24-1
「青春のロシア・アヴァンギャルド - シャガールからマレーヴィッチまで - 」
6/21-8/17(会期終了)



既に文化村での会期を終えている展覧会ですが、ファンとしてはマレーヴィッチを10点見られただけでも満足出来ました。20世紀初頭のロシア芸術を、モスクワ市近代美術館のコレクションにて概観します。「青春のロシア・アヴァンギャルド」へ行ってきました。



川村記念美術館で「シュプレマティズム」を見て以来、マレーヴィッチに惹かれていた私ですが、今展観の10点は、彼の画風の変遷を追うのにも適切なラインナップと言えるでしょう。まず象徴的なのは、マレーヴィッチを抽象の雄として知らしめた一連のシュプレマティズム絵画です。特に、純白の十字架が、ややグレーを帯びた白いキャンバスへと打ち込まれた「白い十字架のあるスプレマティズムのコンポジション」(1917)には心打たれました。この確固たるまでの純粋さの生む気高き気配とは、一体何に由来するのでしょうか。まさに彼の信じた芸術の方向性を、平面上に激しく刻印するかのような力強さをたたえています。この崇高な抽象こそマレーヴィッチの醍醐味です。



スターリンが台頭すると前衛は否定され、マレーヴィッチも一連のシュプレマティズムとはまた違った解答を出すことが迫られます。その一つが、例えばちらし表紙を飾る「農婦、スーパーナチュラリズム」(1920)です。原色の鮮やかなマチエールに象られた色面がせめぎあう大地の上を、まるでそこを支配せんとばかりに立つ農婦の姿が堂々と描かれています。また「刈り入れ人、1909年のモチーフ」(1920年代)も、どこかグラフィカルな様相を感じながら、農村への賛美、もしくはそこでの生産運動への尊敬の念を見るような作品でした。もちろんここでもマレーヴィッチは、以前のシュプレマティズムの持っていた唯一性をまだ残しています。色に形に彼らしい、建築を思わせる逞しい造形美をたたえていました。

ここで終ってしまえば彼の画業を追うのにはやや不十分ですが、今回はさらにその後に描いた作品が二点ほど展示されています。それがまさに具象、言わば正統的な肖像画を思わせる「自画像」(1933)と「芸術家の妻の肖像」(1933)です。ここにはもはやかつてのマレーヴィッチの作風は伺えませんが、自画像における、やや前を恨めしそうに眺める様が、シュプレマティズムを放棄せざるを得なくなった彼の一種の無念がこめられているようにも感じられます。もちろんマレーヴィッチの具象への回帰は、スターリン云々の外的な要因だけでは語れない部分もありますが、かの白い十字架より、己のやや卑屈にも思える像への展開は、この時代のロシアの画家を象徴しているに相違ありません。



マレーヴィッチの感想だけで長くなってしまったので切り上げますが、この他にもあたかもルソーを思わせる、奇妙な幻想世界を構築したグルジアの画家、ピロスマニ、またはゴーギャンをさらに土着的に仕立てたようなゴンチャローヴァなど、数多くの見所のある展覧会でした。ちなみに今出品作70点は、全て日本初公開なのだそうです。道理で新鮮味があったわけでした。



なおこの展覧会は以下、大阪のサントリーミュージアム天保山(9/25-11/3)、岐阜県美術館(11/11-12/25)、そして北浦和の埼玉県立近代美術館(2009/2/7-3/22)へと巡回します。見逃された方にはそちらでのご観覧がおすすめです。
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