都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「三遊亭円朝の幽霊画コレクション」 全生庵
全生庵(台東区谷中5-4-7)
「三遊亭円朝の幽霊画コレクション」
8/1-31
毎年、この時期になると所蔵の幽霊画を公開しているそうですが、今年は内容を補って余りある関連の著作まで復刊しています。山岡鉄舟ゆかりのお寺、全生庵の幽霊画コレクションを見てきました。
今回展観されている全50点の幽霊画は、『幕末から明治にかけての落語界の大看板』であったという三遊亭円朝(1839-1900)の『遺愛』(ともに公式HPより引用。)の品々です。上でも触れたように同寺では毎年、円朝忌の行われる八月の一ヶ月間、これらを一般に公開していますが、その中にはかの応挙をはじめ、広重、谷文一、そして月岡芳年や菊池容斎、さらには河鍋暁斎などの名だたる絵師の作品までが登場しています。これほどの質量を誇る幽霊画をいっぺんに見られることなど、都内ではまず滅多にありません。もちろんお寺の一角ということで、館内は相当に手狭ですが、期待以上に見応えのある展示で楽しめました。
惹かれた作品をいくつか挙げていきましょう。谷文一の「燭台と幽霊図」は、煙のまだ靡く消えた燭台のそばから、ふと今現れたかのような幽霊が流れるようなタッチで表された作品です。その消え入りそうな髪の毛や少し飛び出た目などは、いかにも幽霊と言ったおどろおどろしい様子を見せていますが、燭台の下部に添えられた手だけは、骨や肉付きまで分かる程、か細いながらも随分とリアルに描かれています。その辺の表現もまた、不気味さを醸し出す要因の一つかもしれません。
なごみの琳派、中村芳中の「枕元の幽霊」は、どこかコミカルな様相を見せている面白い一枚です。実のところこの作品は、芳中らしからぬ表現も見られるとのことですが、あばた模様に歪んだ顎、そしてゴツゴツと岩のように飛び出たおでこなどがどことなく丸みを帯びている点に、彼らしさを垣間みることが出来るような気もします。またビックネームではもう一点、月岡芳年の「宿場女郎図」も見事な作品でした。この風を切るかのように斜めを向いた様は、幽霊と言うよりも、カッコ良い一役者の颯爽とした登場シーンのようです。さすがは芳年でした。
聞き慣れぬ絵師も数多く紹介されています。その中では、伊藤晴雨の「怪談乳房榎図」の印象が強烈です。彼は昭和期まで活躍した人物とのことで、その近代的、もしくは洋画的な表現は時代性を反映した面もありそうですが、この解剖学的な迫真の肉体描写は他の幽霊画とは完全に一線を画しています。今回のマイベストはズバリ、この一枚です。またもう一人、歌川芳誕の「海坊主」にもたまげてしまいました。これはマグリットでしょうか。シルエット状の海坊主があまりにもシュールでした。
応挙の「幽霊図」は、例えば「湯上がり婦人図」としても何ら遜色がないような作品と言えるかもしれません。切れ長の目にやや笑みを浮かべた口元に気品を感じるのは私だけでしょうか。絵師の風格が見事に出ています。
「幽霊名画集 - 全生庵蔵・三遊亭円朝コレクション/辻惟雄/ちくま学芸文庫」
今回出品の幽霊画の画像は全生庵HPの他、上の「幽霊名画集」にも全て掲載されています。なお名画集はおすすめの一冊です。今回の幽霊画の解説が書かれているだけでなく、幽霊像の変遷史、またはその背景にある日本人の幽霊観を追う論文なども記載されていました。
明後日、31日までの開催です。なお観覧料は500円です。
「三遊亭円朝の幽霊画コレクション」
8/1-31
毎年、この時期になると所蔵の幽霊画を公開しているそうですが、今年は内容を補って余りある関連の著作まで復刊しています。山岡鉄舟ゆかりのお寺、全生庵の幽霊画コレクションを見てきました。
今回展観されている全50点の幽霊画は、『幕末から明治にかけての落語界の大看板』であったという三遊亭円朝(1839-1900)の『遺愛』(ともに公式HPより引用。)の品々です。上でも触れたように同寺では毎年、円朝忌の行われる八月の一ヶ月間、これらを一般に公開していますが、その中にはかの応挙をはじめ、広重、谷文一、そして月岡芳年や菊池容斎、さらには河鍋暁斎などの名だたる絵師の作品までが登場しています。これほどの質量を誇る幽霊画をいっぺんに見られることなど、都内ではまず滅多にありません。もちろんお寺の一角ということで、館内は相当に手狭ですが、期待以上に見応えのある展示で楽しめました。
惹かれた作品をいくつか挙げていきましょう。谷文一の「燭台と幽霊図」は、煙のまだ靡く消えた燭台のそばから、ふと今現れたかのような幽霊が流れるようなタッチで表された作品です。その消え入りそうな髪の毛や少し飛び出た目などは、いかにも幽霊と言ったおどろおどろしい様子を見せていますが、燭台の下部に添えられた手だけは、骨や肉付きまで分かる程、か細いながらも随分とリアルに描かれています。その辺の表現もまた、不気味さを醸し出す要因の一つかもしれません。
なごみの琳派、中村芳中の「枕元の幽霊」は、どこかコミカルな様相を見せている面白い一枚です。実のところこの作品は、芳中らしからぬ表現も見られるとのことですが、あばた模様に歪んだ顎、そしてゴツゴツと岩のように飛び出たおでこなどがどことなく丸みを帯びている点に、彼らしさを垣間みることが出来るような気もします。またビックネームではもう一点、月岡芳年の「宿場女郎図」も見事な作品でした。この風を切るかのように斜めを向いた様は、幽霊と言うよりも、カッコ良い一役者の颯爽とした登場シーンのようです。さすがは芳年でした。
聞き慣れぬ絵師も数多く紹介されています。その中では、伊藤晴雨の「怪談乳房榎図」の印象が強烈です。彼は昭和期まで活躍した人物とのことで、その近代的、もしくは洋画的な表現は時代性を反映した面もありそうですが、この解剖学的な迫真の肉体描写は他の幽霊画とは完全に一線を画しています。今回のマイベストはズバリ、この一枚です。またもう一人、歌川芳誕の「海坊主」にもたまげてしまいました。これはマグリットでしょうか。シルエット状の海坊主があまりにもシュールでした。
応挙の「幽霊図」は、例えば「湯上がり婦人図」としても何ら遜色がないような作品と言えるかもしれません。切れ長の目にやや笑みを浮かべた口元に気品を感じるのは私だけでしょうか。絵師の風格が見事に出ています。
「幽霊名画集 - 全生庵蔵・三遊亭円朝コレクション/辻惟雄/ちくま学芸文庫」
今回出品の幽霊画の画像は全生庵HPの他、上の「幽霊名画集」にも全て掲載されています。なお名画集はおすすめの一冊です。今回の幽霊画の解説が書かれているだけでなく、幽霊像の変遷史、またはその背景にある日本人の幽霊観を追う論文なども記載されていました。
明後日、31日までの開催です。なお観覧料は500円です。
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