「鏡花作 清方描く」 鎌倉市鏑木清方記念美術館

鎌倉市鏑木清方記念美術館神奈川県鎌倉市雪ノ下1-5-25
「鏡花作 清方描く」
7/10-9/3



率直なところ、鏑木清方にはこれまで少し苦手意識がありましたが、この展示で大分と良い印象に変わりました。同時代に活躍した二人の芸術家、絵師清方(1878-1972)と、小説家の泉鏡花(1873-1939)の関係を辿ります。「鏡花作 清方描く」展を見てきました。



清方はもちろん、泉鏡花についても殆ど知識がありませんが、この展観は私のような素人にも二者の交流関係が理解出来るよう、かなり丁寧に構成されています。出品されているのは、清方が泉鏡花の小説を元に描いた挿絵、もしくはその下絵など、全62点です。そもそも清方は、駆け出しの頃から鏡花の大ファンで、二人の関係も、既に名を馳せていた鏡花へ会いに行ったことから始まりますが、確かに作品を見ても、良いものを描こうとする清方の心意気が感じられるような魅力あるものに仕上がっています。一方、鏡花も、当初より清方を非常に買っていました。初対面の際、挿絵に対する考え方(ちらしより引用)などから意気投合した二人はその後、原稿を持って互いの自宅を訪問し合うなど、交流も更なる深い部分へと進展します。そしてそのような仲を示す一枚として挙げられるのが、「小説家と挿絵画家」です。おそらくは清方宅にて、鏡花と清方が真剣に話し込む様子が描かれています。次に発表する画の詳細でも詰めているのでしょうか。話の尽きることはなさそうです。

 

清方ファンにとっては自明のことかもしれませんが、今回、私が今更ながらに発見したのは、彼の画の持つ深い叙情性です。清方と並び、美人画の三巨匠に挙げられる松園と深水の女性像を好む私にとって、清方のそれは相当に異質でしたが、むしろ彼の持ち味は凛とした清潔感のある美人画を描くということよりも、例えば物憂い気味に沈み込み、どこか儚く刹那的な様相をとる、半ば劇画のように感情の発露された女性にあるのではないでしょうか。鏡花原作の「深沙大王」や、「金色夜叉」にモチーフにとる作品を見て下さい。(上の2枚)男に寄り添う女の侘しさや、その一瞬の様が見せる美しさを見事に示しています。動きのある構図、また趣き深い情感などは、例えば竹久夢二の世界に近い部分があると言えるのかもしれません。この二枚を見て、清方へのイメージはかなり変化しました。彼はまさに大正ロマンを体現する画家だったようです。



鏑木清方記念美術館へは初めて行きました。鎌倉駅より観光客で賑わう小町通りを八幡宮の方へ抜け、一本横へそれた住宅地の中にひっそりと建っています。全体としては相当に手狭ですが、画室の再現展示をはじめ、白石の敷きつめられた中庭、またはそれを望む清潔感のある休憩コーナー、さらには随所に生けられた花など、ついつい長居したくなるような居心地の良い施設でした。また年間を通して見ると展示替えも頻繁です。今後、鎌倉へ行った際には是非立ち寄りたいと思います。



清方へのイメージを改める良い機会となりました。9月3日までの開催です。
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